296 大魔女の弟子VS紫の龍神
「ふむ、これなら確かに見届け人には最適じゃのう」
「そうですわね、ユカ様に見てもらいますわ」
ルームさんが杖を掲げた。
「お師匠様ほどじゃないけど……来て、クリスタルドラゴン!」
ルームさんが魔力を集めて空に放った。
すると、子牛ほどの大きさの、水晶で出来たドラゴンが姿を現した。
「プッハハハ、それはまるで童ではないか」
「やはりお師匠様ほどの力は出せませんですわ」
水晶のドラゴンは、ボクを背中に乗せて空を飛んだ。
そしてボクはアンさんとルームさんに連れられて、沖合いの誰もいない小島の上に連れてこられた。
「ここなら人目を気にせずに戦えますわ」
「いいじゃろう、勝負はどちらかが魔力が尽きるか参ったというまで、間違えても死ぬまでの戦いは無しじゃ」
「もちろんですわ。でも、手加減はしませんわよ!」
「よかろう、楽しもうではないか!」
アンさんとルームさんが魔法対決を始めた。
「バリアフィールド!」
ルームさんの魔法がボクの周りに光の膜を作った。
「ほう、何故じゃ?」
「ユカ様は今は一般人並の力しかありません。ですのでもし、岩石の欠片でも当たったら致命傷になりますわ」
「ふむ、成程な。おぬしは優しいのう」
アンさんが笑っていた。
「じゃが勝負は別じゃ、行くぞっ! 天雷よ、ここに在れ!!」
アンさんが指を天に向け、特大の雷をルームさんに放った。
しかしルームさんはそれをサッと避け、海面を凍らせようとした。
「アブソリュートゼロ・テンパルチャー!!」
「甘いわ!」
アンさんが飛び上がり、凍り付いた海を避けた。
「吹き荒れよ突風!」
アンさんの巻き起こした凄い風がルームさんを襲った。
「貴女こそ甘いですわ、この程度の風で私に何をしようというのでしょうか?」
ルームさんは風を誘導し、さらにその中に雷を解き放ち、アンさんに跳ね返した。
「インドラフレッチャー!!」
「ぬおおうっ!!」
跳ね返された雷の矢と突風が、アンさんを襲った。
「ふう……やりおるのう。では身体も温まってきたし、そろそろワシも本気を出させてもらおうか」
そう言うとアンさんは目を光らせ、巨大な紫の不思議なドラゴンの姿に変わった。
「待たせたのう、では本気を出させてもらおうかのう!」
紫のドラゴンの姿のアンさんは口から激しい息を吐き出した。
しかしルームさんはそれの激しい息を、杖を振りまわしてかき消した。
「この程度で本気ではありませんわよね。私も本気を出させてもらいますわ!!」
ルームさんが海から何十本という水柱を巻き上げた。
さらにその水柱には雷の魔法を付与している。
「ライジングサンダー!!」
「むうう、下からの雷とは!! やりおるのう!!」
ドラゴンのアンさんが雷の直撃を受けていた。
そのタイミングでルームさんは別の魔法を使った。
「メガドレインッ!!」
「ぬうううあああ―!!」
ルームさんはドラゴンのアンさんの魔力を奪い尽くそうとしていた。
「そうはさせんわぁああ!!」
「キャアアアアッッ!!」
魔力を吸い取られようとしたドラゴンのアンさんは持てる魔力を全て集中させ、ルームさんに一気に解き放った。
二人共が魔力を暴走させたことで、辺りの海は凄まじい天候に襲われた。
その後アンさんとルームさんの二人は、全ての魔力を使い果たして海に落下した。
「どうやら……引き分け……みたいですわね」
「そう……じゃのう、でも楽しめた……ぞ。流石はえんとらの弟子……じゃな」
海に浮いている二人とボクの元に、小さな船と白い鯨が向かってきた。
「てめーら、何バカやってんだよー」
海賊の男の人と白い子鯨が海に浮いているルームさんと、少女の姿に戻ったアンさんを拾い、ボクを船の上に乗せてくれた。
ホテルに戻った二人は、海賊の男の人とホームさんにこっぴどく怒られていた。
ボクはその様子を、苦笑いしながら見ているしか出来なかった。