294 スキルを使ってみよう
「まずお聞きしますわ、貴方のお名前は何ですの?」
「ボクは、ユカ・カーサ。戦士長ウォール・カーサの息子です」
「そこは覚えているのですね、では……貴方は最後に覚えている時、何をしていましたか?」
ルームという少女がボクに質問をしてきた。
「ボクは、15歳の誕生日で天啓を受ける為に……村の教会に行きました。そこで天啓を受ける為にお祈りをして……」
「つまり、ユカ様は自分が何の天啓を受けたかも、覚えていないというわけですか?」
ボクが天啓を受けた後、一体何があったんだろうか?
そもそも、ボクの天啓って何のスキルだったのだろうか。
「覚えていないです」
「ユカ様は……床貼りのスキルを使えるのですわ。それで多くの人を助けてくれました」
「ええ!? 床貼り? そんなハズレスキルがボクのスキルなの……?」
信じられない。
ボクのスキルは床を貼るだけのハズレスキルだったなんて。
それなのにそのスキルで多くの人を助けた……そんな信じられない事をルームはボクに伝えた。
「え?? 多くの人を助けたって……」
「本当に覚えていないのですわね。ユカ様は救世主と呼ばれるくらい、多くの人を助けたのですわよ。盗賊のボスだったアジトを倒し、悪徳貴族のヘクタールを倒し、ミクニの国では魔将軍の一人マデンを倒したのですわ」
信じられない……ボクが盗賊どころか、魔将軍なんて普通の人が絶対に勝てない相手を倒したなんて……。
「それ、ボクじゃなくて、ボクと同じ名前の凄い人がいたんじゃないの?」
「いいえ。どれも間違いなくユカ様が、私達を導いてくれたおかげで倒せた敵ばかりですわ」
「信じられない……」
そこにホームと名乗った彼女のお兄さんも、話に加わった。
「僕達は悪徳貴族のヘクタールが盗賊と組んでいる事までは分かっていました。ですが、相手は隣の領地の男爵。僕達は父上の許可無しには領を出る事が出来ませんでした。そこでユカ様が僕達と一緒に盗賊のボスだったアジトを倒し、父上に関所の通行証を出してもらったのです」
やはりこの人達は、ボクが盗賊のボスを倒したって言っている。
もしそうだとしたら、ボクには一体どんな力があるというのだ?
「ユカ様、試しにスキルを使ってみてください」
「え? でもどうやって」
ボクはホテルのバルコニーから裏庭に連れられて出た。
「そこで目の前の土地を水に変えてみてください」
床を貼るだけの力しかないって聞いてるのに、ボクにそんな力があるというのか?
「目の前の……土地を、水に……チェンジ!」
体の力が一気に抜ける。
ボクはmpを使い果たし、その場に倒れ込んでしまった。
「ほら、出来ましたわ」
信じられない、ボクは倒れたまま目の前の水たまりを見た。
目の前にあるのは……人一人分くらい入れる広さの真四角の水たまりだった。
「これが……ボクのスキル……なの?」
「そうですわっ! ユカ様はその力で多くの人を助けてくれたのですわ」
ボクの作った水たまりには澄んだ水が湛えられていた。
大きな狼は嬉しそうにその水を飲みだした。
「ほら、ユカ様が綺麗な水を出したので、シートとシーツも喜んで飲んでいますよ!」
ボクは薄れていく意識の中で、水を飲む双子の狼を見ていた。
そして力を使い果たしたボクは、完全に眠りについてしまった。
「……ここは?」
「ユカ様がスキルを使って倒れ込んでしまったので、僕がベッドまで運びました」
その時、ドアを開けて誰かが入ってきた。
「帰ったのじゃー。ほーれ、みんな、串揚げ買ってきてやったぞい」
異国風の不思議な服装の少女が袋に入れた串に刺した何か変わった食べ物を持って帰ってきた。
「コレもユカ様が考えた料理ですよ、食べたら何か思い出せませんか??」
ボクが料理を考えた??
ますます頭が混乱してきた。
「ほれ、冷める前にさっさと食べるのじゃ」
ボクは少女に手渡してもらった串揚げという料理を口にしてみた。