293 記憶を失ったユカ
第四章スタートです。
しばらくは鬱展開が続きますが、よろしくお願いします。
第三章 あらすじ
ヘクタール領を解放したユカ達は次に自由都市リバテアに到着。
ここで出会ったのは情報屋の男、実は彼は大海賊カイリだった。
そしてユカ達は彼から聞いた話をもとに大魔女エントラと出会えた。
自らの実力不足を感じたホームとルームの二人は大魔女エントラの元に残り、修行することになる。
一方のユカ達は大魔女エントラの助言によりリバテアで暴れるモービーディックを助け、無事、海に出れるようになる。
そこでカイリに紹介された人物が遠方の島国ミクニの武士であるリョウカイだった。
ミクニに到着したユカ達は国内の後継者争いに巻き込まれることになる。
実はそれを裏で画策していたのは魔将軍と呼ばれる最強の魔族、マデンだった。
ミクニの龍神イオリの力を借り、激戦の末マデンを倒し、海の大海獣レッドオクトをも倒したユカ達だったが、謎の薄闇色のローブの男によってユカの中の創一郎の意識と記憶が奪われてしまった。
ボク達がいるのは港町リバテアという場所だった。
そこの大きなホテルの一番良い部屋にボク達は泊っている。
「ユカ様、私の事……覚えてませんの?」
「ゴメン……ボク、キミが誰なのかわからないよ」
目の前の金髪の女の子が泣きそうな顔をしていた。
その後ろには双子のお兄さんと思われる人が困った顔をしている。
他にも何人かいるが、みんなため息をついたり、何か考えているようだった。
「ユカ坊、心配せんでもええ。ここにおるのはみんなおぬしの仲間じゃ」
「仲……間?」
ボクは何故海の上で、大きなタコと戦う人達と一緒にいたのだろうか?
本当にボクにそんな力があったなんて、信じられなかった。
ボクが装備していたらしい……とても持ちきれない重さの剣と鎧は、取り外して荷物袋に入れてくれている。
「クウゥウーン」
とても大きな銀色の狼が、ボクに人懐っこくすり寄ってきた。
ボクは恐る恐る……その毛皮をなでた。
毛皮は温かく、なでていると何だか気持ちが落ち着いてきた。
「さて、これからどうしたらいいのかねぇ」
「とりあえずユカさんがこのままでは、何も動けないな」
「お師匠様がいれば……こんな時、どうすれば良いかすぐに教えてもらえるのに……」
ここにいるみんなはボクのせいで色々と悩んでいるようだ。
ボクはいたたまれない気持ちになってしまった。
「とにかく今はここで休もう。今下手に動いてもなにも良い事がなさそうだし」
「それじゃーオレはこの街でやってた情報屋のつてで、今この街がどうなっているか様子を調べて来るぜー」
海賊の男が部屋を飛び出し、街に向かった。
「とりあえずはこの街で出来る事をしたいんだけどぉ。あーしもちょっと出かけてきていいかなぁ?」
「俺も一緒に出掛けていいか?」
獣人の女商人さんと動物使いの男が、街に出かけていった。
「ふう、ワシも少しこの街を見てくるかのう。ホーム坊、ルーム嬢、ユカ坊を頼んだぞい」
「はい、イオリ様」
「ワシはアンじゃっていっておるじゃろうが」
不思議な少女も街に出かけたようだ。
部屋には双子の狼と、双子の兄妹だけが残った。
「ユカ様、本当に……何も覚えていないのですか?」
目の前の女の子が私に抱き着いてきた。
「え……ええ。キ、キミ……確かルーム……さんでいいの?」
「そんな他人行儀な呼び方、やめてくださいませ。いつもみたいにルームと呼んで下さいませ」
「ルーム……キミは、一体誰なの?」
少女は初対面の相手にするように深々と礼儀正しくお辞儀をして、自己紹介をしてくれた。
「ユカ様、お忘れでしたらもう一度自己紹介させていただきます。私は『ゴーティ・フォッシーナ・レジデンス』伯爵の娘『ルーム・フォッシーナ・レジデンス』ですわ。大魔女エントラ様の弟子で魔法王『テラス・ペントハウス』の子孫でございますわ」
ボクの目の前の可愛い女の子は貴族の娘さんだった。
ゴーティ伯爵様といえば、ボクの住んでいる村の領主様だ。
その領主様の娘さんがボクの仲間だというのか??
「ユカ様、僕も改めて自己紹介させていただきます。僕はルームと同じく『ゴーティ・レジデンス』伯爵の息子『ホーム・フォッシーナ・レジデンス』です。大魔女様エントラ様の弟子で見習い騎士をしています」
ボクは彼があのS級の強さで、見習い騎士だというのが信じられなかった。
「よ、よろしくお願いします。ホームさん、ルームさん」
「ですからそのような他人行儀な言い方はやめてくださいませ!」
「でもキミ達は伯爵様の……」
ルームが一歩踏み込んで私に迫ってきた。
「ユカ様。お忘れでしたら、今までの貴方がしてきたことを教えてさし上げますわ」
「ボクがしてきたこと?」
部屋に三人分の温かい飲み物が運ばれてきた。
ルームはその飲み物を飲みながら話を始めた。
「まずは……私達の出会いからお伝えしますわ」
そしてルームによる、ボクについての話が始まった。




