287 赤い怪物の正体
この怪物はドラゴンではない。
つまりは、私達は今までこの怪物を、多頭のドラゴンだと思い込んでいた。
だが、この怪物がドラゴンではないとすると、戦い方が変わってくる。
「勘違いってどういう意味だ?」
フロアさんが私に質問してきた。
「ドラゴン系のモンスターはブレスを得意とします。しかしこのモンスターは息で攻撃をしてきていない」
「ふむ、そういえばそうじゃのう。龍族であれば子供であろうと息は吐ける。それが龍の息吹じゃ」
龍の姿のイオリ様がそう言った。
「つまりは、あの怪物は首の多いドラゴンではなく、何か別の生き物だという事か」
「カイリさん、そういう事です」
私達がそんな会話をしている間も、赤い怪物の猛攻は続いた。
「こいつがドラゴンでないとするなら……もしや」
私は再度船から飛び出し、作った地面の上で怪物を待ち構えた。
首が私に襲い掛かってくる。
「足元の高さをもっと高くにチェンジ!!」
私の足元の地面は柱のような形にせり上がり、襲い掛かってきた首はその柱の反対側に回り込んだ。
「このカンが正しければ」
私への攻撃を空振りした首は、伸びて回り込む形で柱に巻き付いた。
これは蛇やドラゴンの首や胴体の動きではない。
「デヤァアーー!!」
私は遺跡の剣で怪物の首を上から叩き斬った。
ザシュッ!
鈍い音を立てながら、首はいくつかの形に縦に切り落とされた。
だが、首の斬れたはずの断面は、その直後に再び生えてきたのだ。
「間違いない、これは首ではなく触手だ」
私は辺りの怪物の触手の数を数えた。
首に見えたのは触手、そしてその本数は……8本だった。
「イオリ様! お願いがあります」
「何じゃ、何をすればよいのじゃ?」
「イオリ様は海に潜れますか?」
「無論じゃ。ワシは水と雷と風を司る神龍じゃからな」
私はイオリ様にある事を頼んだ。
「イオリ様、ボクはこの怪物の正体がわかりました。海の中からその怪物を空に放り上げてほしいのです」
「それは何とも豪快じゃな。よかろう、ワシに任せるがよい!!」
イオリ様は一度吠えると、その巨体で海に潜った。
「ユカ、いったい何をしようというんだよー?」
「ちょっと待っていてください、ボクのカンが正しければコイツの正体がわかります」
海が大きく荒れた。
もし私がマップチェンジで船の下を地面にしていなければ、間違いなく転覆していたほどの大荒れだ。
そして海が割れ、イオリ様が姿を現した。
「グォオオオオオオオンン!!」
イオリ様は大きく吠え、怪物の触手に噛みついていた.
そして大きく空に舞い上がったイオリ様にしがみついていたのは、真っ赤な怪物だった。
それはいくつもの触手の塊であり、一つ一つがドラゴンの首くらいの太さがある異様なものだった。
「これが赤い怪物の正体……」
「デカすぎるだろ……これ」
私達が首だと思っていたものは、巨大な八本の触手だった。
「なるほどな、この異様なまでの再生能力、あれは頭じゃなくて足だったってーわけだー」
カイリも怪物の正体が何か分かったようだ。
そう、赤い海の怪物の正体は……山ほどの大きさもある超巨大な大蛸だったのだ。
『大海獣レッドオクト』
私達が倒すべき敵は、八本の首のドラゴンではなく、八本の足を何度も再生させる恐るべき大蛸だったというわけだ。
「ほう、これが妖の正体か。まさかこれほど巨大な蛸の化け物だとはのう、龍族の息吹を感じぬわけじゃ」
大蛸の足を振り払ったイオリ様は空中から巨大な雷をレッドオクトの触手に落とした。
足を焼き砕かれたレッドオクトは砕かれた足を引きちぎり、再度触手を生やしていた。
「まいったねー。あれだけの再生能力の持ち主とは」
「赤い霧の正体はコイツの吐いた墨だったってわけだな」
私達はようやく敵の正体を知る事が出来た。
だがそれが勝利を意味することではない。
ようやく私達はスタートラインに立ったといえる状態だ。




