286 再生する首
「そんなバカな!」
首を切られた赤いドラゴンは一瞬でその首を再生させていた。
「まいったねー。こんなに一瞬で生えてくるなんて」
「なんと面妖な、恐るべき再生能力じゃ。龍族でこのような再生能力を持つ者がおるわけがない!!」
私達が一体の赤い首に気を取られている間に、別の首が襲いかかってきた。
「ガルルルッ!!」
その首にシートが噛みついた。
すると、首は長さを変え、噛みついたシートに絡みついてきた。
この首は伸縮自在だとでもいうのか。
「ギャオオウ!」
シーツがシートを助けようと首をゾルマニウムクローで斬り裂いた。
首からは青とも緑とも取れない体液が流れ出てきた。
しかしこの赤い霧の中では敵味方が判別しづらい。
シートとシーツは臭いで敵を区別しているようだ。
「キュウイイイイイイッッ!!!」
「この鳴き声は、ハーマンッ!!」
なんという事だ、子鯨のハーマンが赤い首に捕まってしまった。
「ハーマンを離しやがれー!!」
カイリが大槍で赤い首を斬り裂いた。
首から解けたハーマンが甲板に落ちた。
「傷ついた者を癒す力を我に……レザレクション!」
エリアのレザレクションスキルのおかげでハーマンは致命傷にならずに済んだ。
そして、エリアのレザレクションは想定外の事をもたらしてくれた。
「レザレクションのおかげで赤い霧が晴れた!!」
今甲板の上は視界が保てた状態になっている。
私達はバラバラにならないように密集する事にした。
「船乗り共は危険だから全員下の部屋に行ってろ!!」
「アイアイサー!!」
霧が晴れている間に甲板に残っていた船乗りは、全員が下の部屋に退避した。
彼等はレベルが低すぎて戦力にならないからだ。
「ワシも本気を出さねばならぬようじゃな!」
イオリ様が指先に雷を集めた。
「轟雷よ、ここに在れ!!」
イオリ様は指先を怪物の頭めがけて指先、特大の雷を落とした。
凄まじい雷が一本の首を黒焦げにした。
黒焦げになった首はドロドロに溶けて消滅した。
「やはりおかしいわい」
「イオリ様、一体何が変なのでしょうか?」
「ワシはアンじゃと……まあいいわい。おかしいのはこの首が溶ける際に骨が一本も見えん事じゃ。龍族であるなら死そうとも骨が無いわけがない」
「では……」
「この妖は龍族ではない。これはもっと別の生き物だという事じゃ」
イオリ様はこの怪物はドラゴンの種族ではないと言っていた。
だが、怪物は何本もの首を持っているようだ。
「来るぞ!」
怪物はまた別の首が現れ、船のマストを狙ってきた。
船のマストを折られたら航行に支障をきたす可能性が!
私は船の外に飛び出した。
「足元の海を陸地にチェンジ!」
私は船が転覆しないように船の周りの海を全部陸に変え、足場を安定させた。
「まるで陸に上がったカッパだなー」
カイリはまだ冗談を言う余裕があるようだ。
「たわけ、くだらんこと言う前にさっさと片付けんかい」
そう言うとイオリ様は空中に舞い上がった。
「ワシも本気を出さんといかんようじゃな、じゃが……船の上で化身すると船を壊しかねん」
イオリ様は高く咆哮をあげると、紫の巨大な龍に変化した。
「グォオオオオオオオ!!!」
イオリ様は赤い首を嚙み千切った。
「不味い、何じゃこの味は!!」
イオリ様は口から赤い首を吐き出した。
私の作った地面の上に、イオリ様の吐き出した首が落ちた。
ドロドロに溶けた首は、嫌な臭いを放ち泡になって消えた。
「これは!」
私はイオリ様の言っていた言葉の意味を考えてみた。
確かにこの怪物には骨が見当たらない。
いうならば、まるで巨大な弾力の生き物を斬っているような感覚だった。
これはひょっとしたら大きく勘違いしているかもしれない。
「足元の高さを船の甲板にチェンジ!!」
私は再び船の上に戻った。
「みんな、ボク達はひょっとして大きな勘違いをしていたのかもしれない!」
「ユカ、それはどういう事だ」
イオリ様の言うことが正しければ、この怪物はドラゴンでない。