283 水面の戴冠式
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ミクニの国の葬儀は、亡くなった王のものだった。
「ユカ様達も参列していましたね」
「そうだねェ。それだけ国の中で重要な立ち位置にいたって事だろうねェ」
お師匠様は葬儀の儀式が終わると、杖をもう一度突く形で水面を元の水に戻した。
「お師匠様、この魔法は?」
「ルームちゃん。この魔法はねェ、遠くにいる生き物の目を使ってその辺りの景色を見れる魔法なのよねェ。そのうちルームちゃんも使えるように なるからねェ」
「お師匠様、わかりました。私、頑張ります!!」
お師匠様はニッコリ笑うと杖をしまった。
「さて。今日はもうゆっくり休もうかねェ」
「お師匠様、昨日の恐竜の肉があるので、僕が料理を作ります」
「それじゃあテリヤキにしてもらえるかねェ」
「わかりました!!」
僕はお師匠様の荷物の中からショーユとミリンを取り出し、蜂蜜と砂糖で味付けをして恐竜肉のテリヤキを作った。
恐竜肉は意外にさっぱりしていて、豚や牛というよりは大きな鶏肉のような味がした。
僕達はその恐竜肉のテリヤキとスープとパンを食べ、その日は洞窟で休んだ。
次の日、お師匠様がまた昨日と同じ池に僕達を連れてきた。
「さて、今日は面白いものが見れるからねェ」
お師匠様はそう言うと、また杖を一度地面に突いた。
すると昨日と同じように水面が鏡の様になり、そこにはミクニの様子が映っていた。
「昨日までとは様子が違うねェ、今日は戴冠式って事だろうねェ」
お師匠様の言った通り、今日のミクニの様子は昨日までの沈んだ雰囲気とは真逆の、とても活気に満ちた様子だった。
「あれ、ユカ様達ですわ」
ルームはこの式典でゲストとして呼ばれたユカ様達の姿を見つけたらしい。
ユカ様達は全員が特等席に専用の椅子を用意されていた。
あのシートとシーツも二匹のための特別席が用意されていた。
「さあ、そろそろ始まるねェ」
お師匠様の言った通り、式典はその後盛大に始まった。
この魔法は声や音も聞こえるようで、ミクニの戴冠式は最初に王だった『ミクニ・ホンド』という人物の戦いの歴史が語られ、その後伝統の舞曲が披露されていた。
そして、次の王になると思われる三人の人物が高い場所で演説を始めた。
最初に話し出したのは一番末の弟と思われる賢そうな人物だった。
「僕達が今ここにいるのは、この国を救ってくれた英雄がいたからです。彼等は大臣のマデンが魔の者である事を見抜き、我等三兄妹が血で血を洗う戦乱に巻き込まれる事を防いでくれました。そして彼等は伝説の龍神様であり、亡き父上の友『龍神イオリ』様と共に魔将軍であったマデンを打ち倒してくれたのです」
そしてその後、凛とした美人な女性が演説を続けた。
「その方々は、霧深き龍哭山に向かい、マデンの呪いにより力を封じられたイオリ様の呪いを解いた。そしてマデンの魔の手から逃れる為にリョウドを連れ、逃亡していた小生を助け、再びイオリ様と城に戻ってきたのだ」
その次に長男と思われる屈強な男性が演説を続けた。
「そうして、城に戻ってきた吾輩が見たのは、マデンに乗っ取られた城だった。だが彼等はそんな城を誰一人として殺す事なく駆け抜け、魔将軍であったマデンを我等兄妹と共に倒してくれた。今ここに我等がいるのは、彼等がいたからだといえよう」
そして三人は同時に言っていた。
「「「今日という日を忘れぬために、今ここに英雄達を称えん!!」」」
それを見ていたお師匠様がニヤニヤと笑っていた。
「さて。そろそろ何か面白い事してあげようかねェ」
「お師匠様、一体何をしようというのですか??」
「ホームくん、ルームちゃん、光ってのは色があるって知ってるかねェ?」
光に色? お師匠様は一体何を言っているのだろうか。
「今から面白い事をするからねェ」
そう言うとお師匠様は杖を高く掲げた。