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281 お師匠様の良いこと

◆◆◆


 お師匠様と僕達は船員さんに新鮮な肉や野菜を提供してあげた。


「船の上でコレだけ新鮮な食材を食えると思えなかったぜ」

「いきなりドラゴンが現れたのはビックリしたけどな」

「それは悪かったねェ。後でお詫びに良いことしてあげるからねェ」


 船員たちの目がお師匠様の胸に釘付けになっていた。


「良いこと……マジかよ」

「だーめ、後でしてあげるからねェ」


 お師匠様はそう言うと砂糖たっぷりの紅茶を飲んでスプーンをペロリと舐めていた。


「お師匠様! 不潔ですわっ! はしたないですわっ」

「ルームちゃん、何怒ってるのかねェ?」


 僕はあえて何も言わずに食事していた。

 お師匠様は一体何を考えているのだろうか?


 食事の終わった僕達は、船の甲板より上にある船長や貴族の泊まるような部屋に案内された。


「さあ、皆様どうかこちらでお休みください」

「ありがとうねェ。ところで船長さんは……どこにいるかねェ?」


 どうやらお師匠様が無人島ではなく船で休む事にしたのは、船長さんに用があるためらしい。


「ワタシが船長です。大魔女様、一体どういったご用件でしょうか?」

「この辺りの海域で出没するって……赤い怪物の事を知りたくてねェ」


 赤い怪物の名前を聞いた途端、船長さんの顔が青ざめた・


「あ……アレは絶対に出会ってはいけない海の魔物。その海域は魔の海域と言われていますが、奴はそれ以外にも出没します。赤い霧に包まれたらもう命は無いものだというのが……数少ない生存者の報告でした。その生き残りは、何隻もの船の大船団でただ一人二人しかいなかったそうです」


 お師匠様はそれを聞いてため息をついていた。


「はぁ。そりゃあ相手したくないわねェ。でも、ミクニとグランド帝国の間の海にはアイツがいる。そうなると倒さないといけない相手だねェ」


 船長さんが震えていた。


「ま……まさか魔女様は、あの赤い怪物を倒そうというのですか!?」

「そうねェ。この子達も優秀だからねェ。後はミクニにいるユカ達が合流すれば十分勝てるねェ」


 ユカ様の名前を聞いた船長さんが、さらに驚いていた。


「救世主のユカ様! あの奴隷商人達を一夜で壊滅させたってあのユカ様ですか!!」

「そうねェ。今頃はミクニの魔将軍を退治している頃だろうねェ」


 もう船長さんは茫然としてその場に座り込んでしまった。


「あら、ちょっと話にショックが大きかったかねェ」


 お師匠様が苦笑いしている。


「さて、少し休んで船長さんの意識が落ち着いたらいいことしてあげようかねェ」

「お師匠様! 良いことって何をするんですか!?」


 ルームが顔を真っ赤にしている。


「ルームちゃん? 何か勘違いしているんじゃないかねェ。ハハハハハ」

「お師匠様、ふざけないで下さい!!」


 ルームに怒られたお師匠様が胸元から飴を取り出した。


「はいはい、怒ってないでコレでも食べて落ち着くんだねェ」


 口に棒付きの飴を突っ込まれたルームは声が出せなくなっていた。


「むぐぐぐむがむご……」


 ルームは涙目で、それ以上何も言えない様だった。


「まあ黙って見ているといいからねェ。ホームくん、船員を全員甲板に連れて来てくれるかねェ」

「はい、わかりました」


 僕はお師匠様の指示通り、甲板に船乗り全員を集めてきた。


「魔女様、一体何を始めるんでしょうか?」


 正気に戻った船長さんがお師匠様に質問していた。


「これから良いことするからねェ! みんな、見てるんだねェ」


 お師匠様はそう言うと、杖を高く掲げた。


「バリアフィールド!!」

「「「!!!」」」


 お師匠様の魔法、バリアフィールドは一瞬で船を薄い光の膜で覆った。


「これは……」

「今晩船に泊めてもらったお礼だからねェ。この魔法は一か月近くは消えないから、モンスターや大波程度なら船を守ってもらえるからねェ」

「魔女様、ありがとうございますっ!!」


 船員が全員でお師匠様に頭を下げていた。


 そして僕達は、船の中で最もいい部屋で次の日の朝までゆっくり寝させてもらった。

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