280 海上を移動する
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次の日、僕達はお師匠様に買い物を頼まれた。
「えーと、肉に野菜に……砂糖あるだけって!! 無ければハチミツやシロップでも可」
お師匠様は一体どれだけ甘いものが好きなのだろうか……。
まあ僕達は買い物を頼まれた分、色々な店で食糧や砂糖、飴、お菓子などを買えるだけ買ってきた。
後は船乗りが使いそうな本格的な海図も買ってくるように言われた。
ここから船に乗るのだろうか。
「まさか金貨の袋が一日でスッカラカンになるとは思わなかった」
「まあ仕方ないですわ、あのお師匠様ですし」
お金はお師匠様持ちだとしても、この量は半端なかった。
そして準備の出来た僕達はホテルに戻った。
「二人共、よく帰ってきたわねェ。ご苦労さん」
「お師匠様、その格好は?」
「そうねェ。今から出発するからねェ」
お師匠様は僕達が買い物に行っている間に、旅の準備を進めていたらしい。
「で、どこに行くのですか?」
「海」
「!!???」
お師匠様は一体何を考えているのだろうか。
「お師匠様! 今から船に乗ろうとしても、チケット買う金どうするんですか!? もう持ってきた金貨はスッカラカンですよ!!!」
お師匠様はお腹を抱えて笑っている。
「アハハハハ。何そんなにムキになってるかねェ。船なんて使わないからねェ」
「船に乗らずにどうやって海に行くんですか!?」
「まあ妾に任せておくんだねェ」
そう言うとお師匠様は杖を高く掲げた。
「さあ、来るんだねェ。クリスタルドラゴンッ!!」
「まさか……」
「そうねェ。海図はここにあるからねェ。今から海に向かうねェ」
どうやらお師匠様は本気らしい。
「まあ途中にある島にいけば休めるからねェ。それじゃあ二人共、乗るんだねェ!!」
お師匠様は荷物をクリスタルドラゴンの背中の鞍に括り付けて、その上に僕達を乗らせた。
「さあ出発だねェ!」
クリスタルドラゴンは高く吠えると、水平線を目指して高く舞い上がった。
そしてとても素早い速さで飛び、リバテアがあっという間に小さくなった。
「凄い!」
「この海図を見る限り、今日は日の落ちるまでに無人島に着ける予定だからねェ」
お師匠様はクリスタルドラゴンの上で、海図を広げてどこに向かうかを調べていた。
「お師匠様、あの……何故敵もいないのにバリアフィールドの魔法を張っているのでしょうか?」
ルームがお師匠様に質問をしていた。
「ルームちゃん、飛行速度が上がるとねェ、何もない空気がとてつもない攻撃力の塊になるんだねェ。その力は、ただ飛んできた木の葉が鋼鉄の鎧に突き刺さるほどだからねェ」
「本当ですか! タダの木の葉が鋭い剣みたいに鋼鉄を切り裂くんですか?」
「ルームちゃん、修行の時に物凄く早く攻撃してくる相手と戦ったよねェ」
「はい、とても強い相手でした」
どうやらルームは、修行で戦った双子の剣士や女性型ゴーレムといったスピード特化の強敵と戦った事を思い出しているようだ。
「あの相手の素早さで木の葉が飛んでくると考えるとどうかねェ」
「なるほど、わかりました。速さが上がると動いている物に止まったようなものが当たると凄い攻撃力になる……だからバリアフィールドで守っているのですわね」
「合格、よくできたねェ」
お師匠様はそう言うとルームに飴を一つ渡していた。
「さて、そろそろ日が落ちるころだねェ。どこか休める場所を探さないと」
お師匠様は周囲を見回し、少し離れた場所の船を見つけた。
「今晩はあそこに泊めてもらおうかねェ」
お師匠様はそう言うとクリスタルドラゴンで船の甲板に降り立った。
「おっと、別に怪しい者じゃないからねェ。今晩この船で泊めてもらえないかねェ」
船乗りたちは突然の来訪者にビックリしていた。
しかしどう考えても勝てるわけの無い、クリスタルドラゴン相手に無抵抗だった。
「コレで泊めてもらえないかねェ」
お師匠様は胸元から高価そうなマジックアイテムを取り出した。
船長らしき人物はそれを受け取り、僕達は一番良い船室で泊まらせてもらえた。