279 遠方の出来事
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お師匠様の召喚したクリスタルドラゴンに乗った僕達は、お師匠様の城から自由都市リバテアに向かっていた。
「凄い早さですね」
「まあこの子はこれくらいのスピードは余裕で出せるからねェ。大体今日の夕方にはリバテアに着くかねェ」
クリスタルドラゴンはレジデンス領からフランベルジュ領を横切り、僕達が下手すりゃ一週間以上かかる距離をたった半日で飛んだ。
「さあもうすぐ着くからねェ」
僕達がリバテアに着いたのは、丁度夕方ごろの時間だった。
お師匠様は住民が怖がるといけないので、クリスタルドラゴンを一旦しまう為に街の外れに着陸した。
「ここから先は歩くからねェ」
「わかりました」
僕達は歩いてリバテアの街に向かった。
そして、以前ユカ様と一緒に泊まったホテルに泊まる事にした。
お師匠様は部屋に大きな鏡がある事を確認し、喜んでいた。
そして僕達は食事をした。
「あれ? 鯨の煮物のバレーナ風って無くなったのですか?」
「ああアレは、時期限定で今は捕れなくなったんだよ。なので牛肉で勘弁してもらえるかな?」
どうやら鯨を守る為に、あの料理は時期限定になったらしい。
まああれだけモービーディックに苦しめられたら、鯨を怒らせようって人はいなくなるだろう。
僕達は牛肉の煮込みバレーナ風を頼んで三人で食べた。
少し甘みが足りないとお師匠様が言っていたが、まあそれはそれとしておこう。
部屋に戻ったお師匠様は半裸でベッドの上に寝っ転がっていた。
服がだらしなく脱ぎ捨ててあって、目の毒だった。
僕はルームに手で目を隠された。
「お師匠様! 服はきちんとたたんでくださいませっ!!」
「えー、面倒なのよねぇ」
「魔法でもいいから早くどうにかしてくださいませっ」
「わかったわよ、ちょっと待っててねェ」
僕が見えていない間にお師匠様はガウンに着替えていた。
「もういいからねェ」
僕はルームにようやく手を除けてもらった。
「さて、ここから今ユカ達がどうしてるか見てみようかねェ」
お師匠様は杖を床に一度トンとついた。
すると、部屋にあった大鏡が遠く離れた場所を映していた。
「あまり状況が良くないようだねェ……。まさかマデンがあれ程の呪いの使い手だとはねェ」
鏡の向こうでは、ユカ様達がマデンと呼ばれた魔将軍らしき黒い鎧の魔族と戦っていた。
そして、その中でも龍神イオリ様と呼ばれていた紫のドラゴンがマデンの呪いでどんどん黒い色に染まっていた。
「さて、力を貸してあげようかねェ!」
お師匠様は高く杖を掲げると、魔法を解き放った。
「グラビティーフィールド!」
お師匠様の魔法が魔将軍マデンの動きを封じた。
その様子を見ていた龍神イオリ様は、この魔法がお師匠様のものだとすぐに理解したようだ。
「だらしないねェ。龍神イオリってその程度の強さだったかねェ」
お師匠様は挑発しているようだが、本心は龍神イオリ様を心配しているのだろう
お師匠様は空を飛ぶ鳥の口を借りて遥かなる遠方に声を届けていた。
「その呪いを解く方法は一つだけだねェ。エリアちゃん、イオリに浄化のスキルを使ってあげてくれるかねェ」
お師匠様はエリアさんの力をよく知っているようだ。
「さて、これでもう問題はないだろうねェ。ユカ達なら魔将軍の一人くらいもう余裕で倒せるだろうからねェ」
「お師匠様……素晴らしいですわっ!」
ルームがお師匠様の魔法の凄さに感動していた。
「ルームちゃん、貴女もいずれこれくらいできるようになるからねェ。なんせ貴女は魔法王テラスの子孫だからねェ」
「はいっ! 私頑張りますっ!!」
「よくできました。それじゃあもう寝ようかねェ」
僕達はユカ様達の勝利を信じて眠りにつく事にした。
明日は何をするのだろうか……。
僕はルームやお師匠様と三人別々のベッドで、ゆっくりと眠った。