278 海の上の告白
ミクニの国での話はここまでになります。
この後はいよいよ第三章のボス戦開始です!
「え……イ、イオリ様?」
「なんじゃ、ワシがここにおっちゃいかんのか?」
いや、ダメだとかダメじゃないとかじゃなくて……。
「はっきりせんヤツじゃのう。はひにひひはいほとははへは、はっひひひへはほかほう」
あの、せめて口にある物食べ終わってから話してください。
「あの、何言ってるか全然わからないのですが?」
「はっきりせんヤツじゃのう。ワシに言いたい事があれば、ハッキリ言えばよかろうと言ったのじゃ」
イオリ様を見ていると、どう見ても凄い龍神様というよりは可愛らしい少女にしか見えない。
「いえ、イオリ様はミクニの守護神なんですよね?」
「そうじゃが」
「それなのに……ミクニを離れても大丈夫なんですか?」
イオリ様が胸を張ってドヤ顔していた。
「大丈夫じゃ。守護神であるワシが大丈夫と言っておるのじゃ、あの三兄妹に任せればこの国は天下泰平と言えるじゃろうて」
「そうなんですね」
「それにな……ユカ坊、ワシにはどうも気になる事があってのう……」
串揚げを食べてお子様みたいな表情をしていたイオリ様が、いきなり真面目な表情に変わった。
「其方らの言っておる赤いバケモノというものが気になってな、龍である以上はワシの眷属のはず……じゃが、海からは邪悪な気配は感じても龍の息吹は感じぬのじゃ」
「では……イオリ様は、ボク達について来るという事でしょうか?」
「無論じゃ。ワシも其方らの旅について行く事にしたぞい」
まあ一人増えても特に食料等に問題はない。
それにイオリ様はレベルで言えば、80近い最強の龍神だ。
本音としては来てもらえると非常に助かる。
「わかりました。ではイオリ様、よろしくお願いします」
「うむ、大船に乗ったつもりでおるがよい」
イオリ様を含めた私達は、アトランティス号に乗りこんだ。
ミクニを旅立つ私達を、リョウカイさんやリョウドさんが見送ってくれた。
武士団達は統制の取れた動きで、私達を見送る儀式を行った。
そして色とりどりの花火が打ち上げられ、港には多くの見物人が押し寄せ、その数は数万人を超えていた。
「さようならー。お元気でー!!」
私達は手を振り、ミクニの港を離れた。
「リョウクウ嬢……結局来んかったか……」
私達が遠く小さくなっていくミクニを水平線の向こうに見ていたその時、海の上を高速で飛んでくる姿が見えた。
「あれは!?」
海の上を飛んできたのは、飛龍だった。
あれは……ランザンだ。
「皆様ー、お元気でー!!」
傷の癒えた飛龍ランザンの上に乗っていたのは、リョウクウさんだった。
「リョウクウさーん!!」
リョウクウさんは大きく槍を振りまわして私達の呼びかけに返答した。
そして、ランザンは更なるスピードでアトランティス号に飛んできた。
「カイリ様ー!!」
リョウクウさんが大声でカイリの名前を呼んだ。
「リョウクウ、何だよー!!」
カイリは海からどんどん迫ってくるリョウクウに大きな声で返答した。
「カイリ様、小生……わ、私は貴方をお慕い申しております!! も……もし、再びミクニに来ていただけるのでしたら……私を、貴方の妻にしてくださいませ!!」
なんという事だ、リョウクウさんは海の上からカイリに大声で愛を告白していた。
「おうっ!! オレはまたここに帰ってくるぜー!! その時は、お前を連れていく! だから……リョウクウ、お前はずっとオレの隣にいてくれーっ!!」
「カイリ様……はいっ! 私はカイリ様のお帰りをお待ちしております。カイリ様……大好きです、ずっと以前から貴方をお慕いしておりました」
「良かったのう……リョウクウ嬢、ようやく気持ちを伝えられたようじゃのう」
イオリ様は船の縁に座り、飛龍に乗ったリョウクウさんと船を操縦していたカイリの愛の告白をニヤニヤしながら見ていた。
「カイリ様、皆様……どうかお元気でー!!!」
リョウクウさんは飛龍に乗ったまま、どんどん船から遠ざかっていった。
そうして私達は、ミクニの国に別れを告げたのだった。