276 出航の準備
王位継承式典のお祭り騒ぎは、その後三日程続いた。
式典の次の日にも街中はとても賑わっていた。
私達はどこに行っても注目の的になってしまい、城の客間が唯一落ち着ける場所だった。
「有名になりすぎるってのも考えものだね」
「オレも行く先々でねーちゃんに声をかけられたけど、流石にこれだけ続くと困りものだわー」
「俺は本来うるさいのは苦手なんだがな……」
みんなも同じような感想だ。
今はリョウカイさん達に人払いしてもらっているので、私達は客間でゆっくりと休んでいた。
「そろそろ国に戻らないと、魔軍がまた大量のモンスターを出してくるかもしれない」
「確かにそうだなー、オレは子分共やハーマンも気になるな」
「まぁミクニとの商売のルートは確保できたし、そろそろ商会を復活させたいねぇ」
みんな考えは色々と違うが、そろそろミクニを離れようというのは共通意見のようだ。
「でもその前にあの赤いバケモノを倒さないとなー」
「アレがいる限りは安全な交易ルートは確保できないしねぇ」
ではそろそろ旅立ちの準備を始めないといけないな。
◆◆◆
小生は兄上、リョウドに伝え、一人で出かける事にした。
城の外で少女の姿のイオリ様が立っていた。
「リョウクウ嬢、どこへ行こうというのじゃ?」
「そろそろランザンの体調が良くなったと思いますので、迎えに行きます」
「そのまま行ってしまっていいのか? 其方の好きなカイリ坊に会えないままになってしまうぞ。もう二度と会えんかもしれんのじゃぞ」
「……もう、決めましたので」
イオリ様は小生を優しそうな目で見ていた。
しかしもう決めた事。
これから先、小生はこの国の為に生きる。
「そうか、ワシが乗せてやったらすぐにたどり着くが……自身で行くのじゃな」
「はい、そうしないと決心がつきませんので」
「気をつけてのう……」
小生は馬を走らせ、ランザンのいる龍哭山のふもとの村を目指した。
カイリの顔を見るわけにはいかない。
見てしまうと彼の旅に出るのを、引き留めてしまいかねないからだ。
小生は馬を走らせた。
◆◇◆
私達は城の人にも頼んでカイリの船に荷物を積み込みだした。
米の稲穂も種もみで何本も確保した。
コレがあれば、ミクニ以外でもカツ丼を食べる事が出来る。
後は小豆も持って行く事にした。
エントラ様がこういうのを好みそうなので、コレは彼女へのお土産である。
「まあ豆とか植物類ならぁ、あーしのスキルでいくらでも増やせるからねぇ」
マイルさんの植物使いのスキルは優秀だ、コレがあれば種になる植物さえあればどこでも植えて増やす事が出来る。
後はミクニの良質な鉄や織物と紙に酒類も確保した。
コレらを売ればかなりの大金を稼げるってわけだ
「ユカ、後どれくらい用意すればいいんだー?」
「そうですね、大体一か月分くらいの食料があればいいかと思います」
そして私はこのミクニでもスキルを使えるように、あの事を考えた。
「リョウカイさん、リョウドさん。この城で使っていない、誰も入らない部屋ってありますか?」
「第二宝物殿でしたら普段は誰も入らないですが、ここで良いですかな?」
「はい、お願いします」
私は第二宝物殿の合鍵を譲ってもらい、中に入った。
中には戦用の鎧や武具、普段は使わない先日王位継承式典で使われた祭具がしまわれてあった。
「目の前の床をワープ床にチェンジッ!!」
私はマップチェンジスキルでワープ床を作り、中に入った。
すると、見覚えのある冒険者ギルドの私達の部屋に一瞬で移動できた。
「よし、これで準備は出来た!」
私は再度ワープ床に入ると第二宝物殿に戻ってきた。
このワープ床を使ってグランド帝国に戻るならそれでも問題は無いが、今後のミクニとグランド帝国の交易路の事を考えると……あの海の赤い怪物を倒さなくていけない。
「よし、準備を続けよう!」
私達はそれから数日かけて、旅立ちの準備を進めた。
食料と貿易用の荷物を積み込んだ船は、港でカイリの手下の船乗りや海賊達に整備されていた。
そして一週間後、船の出航準備が完了した。