273 覇王の眠る廟
「イオリ様、眷属とは?」
「うむ。龍族はのう、離れた場所におっても仲間の意識を感じる事が出来るのじゃ。手傷を負ったランザン坊は今村人の治療のおかげで一命をとりとめて村でぐっすりと寝ておるわい」
「イオリ様、そのような事までわかるのですね! ランザンは無事だと!!」
リョウクウさんがとても嬉しそうな表情になっていた。
彼女は飛龍のランザンが、自分をかばってケガをしたのを悔いていたのだろう。
「うむ、後二日もすれば目を覚ますじゃろうて」
「ありがとうございます、イオリ様」
私はイオリ様に聞いてみた。
「イオリ様は眷属なら海の龍の事もわかるんですか?」
「そうじゃ、ワシは龍族の長じゃからのう。しかし其方らのいう海の怪物からは龍の息吹を感じぬのじゃ。あのへっくすの糞タワケも今どこにおるかわからんがのう」
どうやらイオリ様は龍族でも気配を感じる相手と感じない相手がいるらしい。
あの海の赤いドラゴン達は、それに当てはまらない相手のようだ。
「皆様、明日は父上の葬儀を執り行います。今日はゆっくりと休んでください」
「わかりました。リョウドさん達は?」
「僕達は……父上と最後の夜を過ごします。お気になさらないで下さい」
まあこれは寝ずの番という事なのだろう。
ミクニの風習は日本にやはりどこか似ている気がする。
そして私達は客間に戻り、朝まで寝る事にした。
◆
「お早う御座います、皆様」
「おはようございます」
リョウドさん達は黒いいで立ちで用意していた。
私達も渡された服装に着替える事になった。
「この服は一体どう着ればいいんだよー?」
「俺の頭が服に引っかかったんだが」
この人達は和服の喪服なんて着た事が無いのだろう。
結局、リョウドさんの家来の人達が私達に服を着せてくれる事になった。
まあ私は一人で着物を着れたので、特に問題は無かった。
「リョウクウちゃん、綺麗ねぇ」
「マイル殿こそ……とても美しいいで立ちで御座います」
「まあワシはこの格好の方が良さそうじゃのう」
イオリ様は少女の姿ではなく、女術師の時のスタイルで和服を着こなしていた。
その美しさはまるで、そのまま水墨画になりそうなくらいだった。
「どうしたのじゃ、ユカ? まさかワシに見惚れたか?」
「……行きます!」
和服姿のエリアが少しふくれっ面になっていた、何故なのだろうか?
私達はリョウドさん達の後ろからついて行く形でホンド王の葬儀に参加した。
ホンド王の亡骸は荼毘に付され、私達はそれを眺めていた。
本当は泣きたいだろうが、リョウドさん、リョウクウさん、リョウカイさんは誰一人として泣かずに葬儀はしめやかに行われた。
そこには立派な廟が立てられている。
どうやらここはホンド王の父、コクド王を祀った廟だそうだ。
「祖父はこの地のどこかに眠っていると聞きます。父上は敗戦の戦で祖父を討たれた時、その亡骸を敵に渡さぬため、どこかに埋めたそうですが……今や誰一人としてその場所を知っている者は残っておりません。しかし父上は天下統一をした際に、祖父を祀るためにここに廟を建てたのです」
リョウカイさんがこの廟の成り立ちを説明してくれた。
「そして、ここは父上の眠る場所となります。この高い山の廟から父上にはこのミクニが平和な国である事を見ていただくのです」
この時、シートとシーツが高く吠えた。
「アォオオーーーン!!」
そう言えばこの双子の両親も辺りの見える高い場所に埋めたので、彼らはそれを雰囲気で思い出したのかもしれない。
乱世の覇王『ミクニ・ホンド』
彼はこの廟でいつまでも、この国が平和であるように見守り続けるのだろう。
リョウカイさん達三兄妹は、高く刀を掲げた。
「我等三兄妹、この地に絶対の平和を誓わん!」
「たとえどのような国難が訪れようとも!」
「三人でこの国を守り抜くと、今ここに誓う!」
ミクニの武士団達は全員が高く勝どきを上げ、その声は山いっぱいに響き渡った。