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271 季節外れの桜

前回のお風呂回の続きです。

◆◆◆


 お風呂の中の女子会はまだ続いていた。


「それで、其方ら。好きな殿方はおるんかいのう?」


 イオリ様! いきなり何を言い出すんですか!?


「え……ええっ??」

「なんじゃ、エリア嬢。顔が真っ赤じゃぞ。湯にのぼせたのか?」

「そ……そうじゃありませんが」


 私は思わずお湯の中に顔を半分沈めてしまった。


「なんじゃなんじゃ、其方まだ初心(うぶ)じゃったか。それは悪いことをしたのう」


 イオリ様が悪戯(いたずら)な表情で笑っている。

 この人、そういう性格だったんだ。

 龍神様というからもっと厳格な方だと思っていた。


「そういうイオリ様こそ、父上とはどういうご関係でしたのでしょうか?」


 リョウクウさんがイオリ様に質問をしていた。


「ワ……ワシは健全な関係じゃよ。其方の父上とは清い間柄じゃ」

「そうなのですね。父上は母上以外に側室はおりませんでしたから。もしやと思いまして」

「ワシに下世話な話をするでないっ! なんじゃその目は、そんな目で見るんじゃない!!」


 イオリ様が私以上に顔を真っ赤にしていた。


「フフフ。小生、イオリ様でしたら父上とそういう関係でも別に嫌ではありませんでしたが」

「龍神をからかうでないわ! この不埒者めっ」

「でもイオリ様ってぇ、ホンド王の前では別の姿だったんでしょ。その姿を見たいわぁ」


 風呂の中でお酒を飲んでいたマイルさんが上機嫌で笑っている。


「なんじゃ、其方らワシのもう一つの姿が見たいのか、では見せてやろうかのう」


 そういうとイオリ様は全身が煙に包まれた。

 そして煙の中からはとても長身でスタイルのいい髪の長い美人が姿を現した。


「どうじゃ、美しいじゃろう。これがワシがホンド坊の女術師としての姿じゃ」

「美しい……それに、母上にそっくりだ」

「まあそうじゃろうな。ワシはホンド坊の心を見て、理想の姿になってやったからのう。しかしまさかそのワシそっくりな美人がいるとは思わんかったがのう。リョウクウ嬢、其方は母君にそっくりじゃ」

「勿体ないお言葉です、イオリ様」


 確かにイオリ様の変身した女性の姿は、リョウクウさんを成長させたような美しさだった。


「其方ももう戦戦(いくさいくさ)に明け暮れる時でもなかろう。女子(おなご)としての幸せを掴んでもよいのではないのか?」

「し……小生にはそんな殿方なぞ……」

「ワシは知っておるぞ。其方カイリ坊に惚れておるな」


 イオリ様が意地悪な笑顔をしていた。


「な、何を仰いますか……そのような事なぞっ!!」

「でもカイリ坊の事、嫌いではなかろう」

「……」


 今度はリョウクウさんが顔を真っ赤にしてしまった。


「マデンも言っておったが、人生は儚い。思いを遂げぬまま朽ちていくのは悲しいぞい。今のうちに伝える事はきちんと伝えるべきじゃがなぁ」

「イオリ様……その話はまた今度にして下さい」

「なんじゃ、これからが面白いところじゃったのに……まあいいわい」


 なんだかんだと話をしているうちに、私たち全員が顔を真っ赤にしてその場にへたり込んでしまった。

 どうやら全員のぼせてしまったようだ。


「ここにいる全員に元気を……レザレクション」


 これははっきり言ってレザレクションの無駄遣いかもしれない。

 でも、このレザレクションのスキルは……その辺りで散っていた木の枝を蘇らせた。


「ほう、季節外れの桜か……これは風流じゃのう……」

「綺麗……」

「美しい……まるで夢の中のようです」


 私達はしばらくの間、お風呂場の庭の木に咲いた桜を眺めていた。


◆◇◆


 女湯がどうも騒がしい、どうやらイオリ様も向こうにいるようだ。


「ユカ殿。ユカ殿の持つその力は一体どういう力であるのか?」

「リョウカイさん、ボクのスキルは……その場の土地を別の物に変えられる力なんです」

「何と面妖な、それは既に神の域ではないのか?」


 まあこのスキルの使い方は使い方次第で神にも悪魔にもなれる力だ。


「そうですね、この力があったからマデンを倒せたと思います」

「そうであるな。ユカ殿達がいなければ、この国はマデンの思惑で再び明けぬ戦乱に突入するところであったですぞ。感謝致しますぞ」


 リョウカイさんが私に深々と頭を下げた。

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