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266 三本の矢

ついに魔将軍マデン戦、決着です!

「ホンド坊! 死んではならぬ……死んではならぬ。何故じゃ……其方は、ワシを……嫁にするのではなかったの……か」


 イオリ様の悲痛な叫びが天守閣に響いた。

 だが、ホンド王が返事する事は……二度と無かった。


「イオリ様……」


 イオリ様はアンの姿のまま大きく吠えた。

 そして、そのまま龍へと姿を変え、悲痛な鳴き声は国中に轟いた。

 嘆きの鳴き声は黒い雲を呼び、辺りは一面激しい雷雨に包まれた。


「ウオオオオオオオオーーーン!!」


 イオリ様の巻き起こした激しい雨粒は、マデンの鎧を少しずつ砕いていた。


「グアアアアァァァ! 我の……我の鎧がぁ」

「マデン、キサマはワシの手で殺す! その四肢と魂、全てを砕き喰らい尽くしてやるわ!!」


 イオリ様の目が、真っ赤に燃えていた。

 そして激しい攻撃はマデンの全身を砕いているはずだった。

 だが、マデンは笑っていた。


「そうだ、憎め! 憎め! もっと我を憎むがよい!!」


 その様子を見ていたリョウドさんが叫んだ。


「イオリ様、駄目です! マデンを憎んではなりませぬっ!!」

「!? ……何故じゃ! こ奴は……お前達の仇ではないのか!?」

「僕は……マデンに取り込まれました、それで奴の正体を知ったのです」


 確かにリョウドさんはマデンの黒い剣に操られていた事があった。


「奴は呪い、怨嗟、憎しみを糧に生きる魔物……戦場の朽ち果てた鎧兜に満ちる怨念の化身なのです。憎しみで戦う事は、奴に力を与える事に他なりませぬ!」

「……むう、そうであったか。ワシとした事が、迂闊じゃった」


 マデンが立ち止まっている。


「ま……まさか、我の正体を知られるとは……くッ、ここは退かせてもらう!」

「そうはさせんぞ!」


 正気の目を取り戻したイオリ様が叫んだ。


「キサマはもうここから逃げられん。ワシの聖結界ある限りな!」

「な……動けないだとっ!」

「死ぬがよい! 紫電狂飆(しでんきょうひょう)!!」


 突風で空中に巻き上げられたマデンは360度全てから襲いかかる紫の烈風と轟雷に身体を打ち砕かれた。


「ギャアアアアッッッ!!!」


 マデンはもう瀕死だ、しかし私は嫌な予感がした。


「足元の高さをマデンの位置までチェンジ!!」


 そしてマデンの後ろの何もない空間を私は遺跡の剣(エクスキサーチ)で斬りつけた。

 そこにはいつかの薄闇色のフードの男が隠れていた。


「!!! ッくッ!! 何でボクがここにいると気が付いたァ!!」

「魔族に与するお前なら、間違いなくここに来ると見たんだよっ!」

「クソッ、マデン。キミはもう無理だねェ。ボクは帰るよォ」

「貴様は……バグスッ! 我を見捨てるというのか!」


 だが、バグスと呼ばれた薄闇色のフードの男は、返事もせず姿を消した。

 マデンはイオリ様の作った雷球の中でもう息も絶え絶えだった。


 そのマデンを狙い、リョウドさんは弓を握った。


「父上、僕もミクニの武士です。マデンは……必ずや僕が討ちます!」


 リョウドさんはホンド王の使おうとしていた矢を取り出した。

 そして矢を番えると、マデンを狙った。


「リョウド、吾輩も力を貸そう」


 リョウカイさんがもう一本の矢を持ち、リョウドの矢に重ねた。


「小生も、気持ちは同じだ」


 リョウクウさんがもう一本、矢を持ち、三人が矢を重ねた。


「坊達よ……マデンに普通の力は通じぬ、ワシがお前達に力を授けよう」


 イオリ様が三本の矢に水の力を付与した。


「私の力も……使ってください」


 エリアが三人に聖なる力を付与した。

 三人の持つ弓の三本の矢は、聖なる力と水の力を湛えた巨大な水と光の矢へと姿を変えた。


「や……やめろ、やめてくれ……!!」


「「「マデン! 覚悟!!」」」


 ホンド王の三兄妹が放った水と光の矢は、マデンの真核を打ち砕いた。


「グワワァアアアアア!!」


 真核を打ち砕かれたマデンはその全身を失い、完全に消滅した。


「勝った。父上! 仇は取りました!!」

「リョウド、よくやった!」

「リョウド、もうお前は立派な武士だよ」


 三兄妹は肩を寄せ合いながら、三人でいつまでも泣き続けた。

 雨はいつまでも降り続け、偉大なる覇王を嘆き、天も哭いていた。

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