265 覇王の最後
マデンの黒い鎧は、聖なる結界の力とイオリ様の出した水によって溶けて脆くなっていた。
「貴様ら、我の自慢の鎧を……許さんぞ!!」
マデンは半狂乱になりながら黒い剣『刻食み』を振るってきた。
だが、マデンの力が先程よりも弱っている。
これくらいならレベル40以上あれば戦えるはずだ。
「みんな、マデンの黒い剣に触れないように気を付けて!」
「おうっ! オレに任せなー!!」
カイリが大槍を突き立て、高く跳躍した。
「食らいなー! オレの一撃をよー!!」
「グゲァアア!!」
カイリの槍から水を纏った一撃が放たれた。
大槍はマデンの肩の鎧を打ち砕いた。
砕かれた鎧から黒い煙が噴き出している。
「ウグウウオオオオ!」
マデンが苦しんでいた。
そこにカイリと同じように、水を全身に含んだシートとシーツが駆けてきた。
「アオオオオーン!!」
シートとシーツは二匹で重なるように動き、マデンの左右から同時のタイミングで爪を突き立てた。
流石のマデンも同時の攻撃をかわすのは出来ず、結局双方の攻撃を直に受けていた。
「ギギャアァ!!」
鎧を失ったマデンの左手が切り裂かれた。
マデンの身体からは血の代わりに黒い煙が吹き上がっている。
「獣風情が……我に爪を立てようとは、身の程を知れぃ!!」
マデンの黒い斬撃がシートとシーツを襲おうとした。
そのタイミングで、リョウカイさんが銘刀海神を振るった。
「吾輩の銘刀海神、その一撃を受けてみよ! 彗平閃!!」
「ギャググゴオオ!!」
バキイイィイン!!
聖なる水の力を湛えた銘刀海神は、マデンの黒い剣『刻食み』を鎧ごと水平に断ち切った。
「バ……バカな。我は魔将軍マデン。魔族最強の副王なるぞ……」
黒い剣を失ったマデンは呆然と立ち尽くしていた。
そのマデンを遥かなる遠くから一本の矢が襲った。
「ギャアッ!」
私達が矢の飛んできた方向を見ると、そこにいたのは天守閣の最上階で弓を持ったホンド王だった。
「マデン……貴様がまさか魔の者だったとは……儂だけでなく貴様は父上をも謀ったというのだな」
「ホンドォ……何故動ける? 我が呪いで貴様はもう余命いくばくもないはず!」
「儂はこの国のために為すべきことが残っている! 其れを為すまでは死んでも死に切れぬ!」
マデンの目が光った。
「ならば死ねぃ!」
マデンの放った黒い呪いの矢は一瞬でリョウド王を貫いた。
「ぐぁっ!」
「「「「父上!!!」」」
リョウド、リョウクウ、リョウカイの三兄妹が同時に叫んだ。
リョウド王は返事せず、その場に倒れた。
「ホンド坊!!」
イオリ様が叫んだ。
そしてイオリ様は龍の姿からアンの姿に変わり、倒れたホンド王のそばに降り立った。
「イ……イオリ……様。お願いが、ございます」
「なんじゃ、死ぬな! 死ぬではないっ……!!」
「三人を……儂の元に」
「わかった、すぐ連れてくるから待っておれ!!」
イオリ様は天守閣から舞い降りて二の丸に着地すると、三兄妹に告げた。
「ワシについてまいれ。其方らの父の最後の願いじゃ」
そういうとイオリ様は再び龍の姿になり、天守閣に三人を乗せて降り立った。
「父上!!」
「リョウカイ……か、三人とも……おるのだな」
「父上、しゃべってはなりませぬ。傷が」
「もうよい、儂は長く生きた。そして最後にお前達に……伝える事……がある」
「父上!!」
三人は倒れたままのホンド王のそばで泣いていた。
「泣くではない、其方らは儂の自慢の子供だ。ユカ殿が……儂に教えてくれた事がある」
「父上、父上!!」
「お前達はそれぞれが、一本の矢だ。そのままでは折れてしまう。だが、三人力を合わせよ……その矢は決して折れる事はない」
「父上……余は……僕はそんなに強くなれませぬ」
エリアはどうにかレザレクションでホンド王を助けようとしていた。
しかし、天命まではいくらレザレクションの能力でも変える事は出来なかった。
「弱くてもいい、だからこそ……出来る事をしろ。それがお前達に伝える最後の言葉だ……三本の矢に……な……れ」
それが乱世の覇王『ミクニ・ホンド』の最後の言葉だった。