263 龍神イオリの追憶
◆◆◆
ホンド坊はワシの事を覚えておった。
ワシにとってはほんの戯れ、村祭りでワシを呼ぶ者達がおったので化身して祭りを楽しんでおった時の事じゃった。
ワシは血気盛んな身の程知らずの若者が気になり、木の上から見ておった。
その者は、民百姓に親しげに話し、神への感謝を忘れぬ珍しい小さなサムライじゃった。
ワシはその坊主が藤の木の所に来たので、少しからかってやった。
風を操り、その坊主の前に藤の木の道を作ってやったのじゃ。
坊主は不思議そうな顔をしながら、ワシの前に姿を現した。
その坊主は凛々しい美男子じゃった。
ワシはその坊主が気になり、声をかけた。
「其方は誰じゃ?」
……その後、ワシはマデンと戦い、呪いの剣で本来の姿に戻れなくなってしまっておった。
それを引き抜いてくれたのが、その時の坊主じゃった。
ワシはその恩義に報いるため、坊主の天下統一の力となってやった。
その坊主が幼き日にワシと藤の木で出会ったホンド坊じゃった。
マデンは本来の姿を隠し、貧乏貴族の身体を依り代としてホンド坊の父、コクドの忠臣に成りすましておった。
ワシはマデンの事を暴こうとすると苦痛に襲われる呪いをマデンにかけられていたので、その正体を人に伝える事が出来ずにおった。
しかし、ワシはホンド坊のため、普段は女術師として、戦の時には女術師が呼んだ龍神イオリとして共に戦った。
だがホンド坊は、ワシが藤の木で会った少女だったとは今の今まで知らなかったようじゃ。
「イオリ様、儂を天守閣の所まで……」
「二度も言わずともよい、分かったわい」
ワシはホンド坊を支え、天守閣まで連れて行った。
エリア嬢はワシの横でホンド坊に力を与えてくれていた。
どうやらエリア嬢の力が無ければ、ホンド坊はもう余命いくばくも無いようじゃ。
「ホンド坊、身体は大丈夫かえ?」
「イオリ様……今はそれどころでは、儂にはせねばならぬ事があるのです」
ホンド坊の顔は土気色になっていた。
それでも坊は最後の気力を振り絞り、足を引きずりながら天守閣に向かっていた。
ワシらが天守閣の最上階に着いたのは、その後じゃった。
◆◇◆
マデンと私の死闘は続いていた。
しかし、池に足を取られたマデンは本来の力を出せない様だった。
マデンの弱点はどうやら水で間違いが無いようだ。
「貴様、この我に傷をつけるとは……万死に値する事だと思い知れ!」
「そんな傷ならいくらでもつけてやる!」
私の遺跡の剣は確実にマデンの鎧にダメージを与えていた。
この金属は、マデンの鎧よりも固い素材で出来ているのだろう。
「我が呪いを受けよ!」
マデンの手から黒い霧が噴き出してきた。
これに触れると、呪いを受けてしまう!
「足元の土地の高さをチェンジ!」
私の足元の土地が高い場所に変わった。
そして攻撃対象に避けられたマデンの呪いは、私の足元で霧散した。
「小癪な奴め!」
「でやぁあー!」
私は遺跡の剣を突き立て、マデンの胸元を突き刺した。
「グギャガアアアア!!」
遺跡の剣は確実にマデンの胸を貫いた。
しかし、マデンは笑っていた。
「クッハハハハハハ! これで勝てると思っているのか」
「何だと!」
胸を突き刺されたはずのマデンは、その鎧のヒビを修復させた。
「人の悪しき感情がある限り我は不滅。不死身なり!」
コイツはアジトと同じような不死身だというのか!
だが、コイツはアジトとは違う。
どこかに確実に弱点はあるはずだ。
私がマデンとの戦いをしているさ中、二の丸にリョウカイさん達が姿を現した。
「ユカ殿! 助太刀いたす!!」
「リョウカイさん、コイツ相手にみんなは無理だ! 下がっていてください!!」
みんなが現れたのを見たマデンは、高笑いをしながら黒い煙を集めていた。
「クッハハハハハハ! 全員ここに来るとはな、皆纏めて呪いを送ってしんぜよう!」
マデンの呪いの大玉が私以外の全員を襲おうとしていた。その時!
「皆の者! 危ないっ!!」
天守閣からイオリ様が舞い降りて、雷撃で呪いの玉を打ち砕いた。