261 古代の術法
マデンは私の攻撃を軽くかわした。
コイツは何度もの戦を切り抜けてきた猛者、今までの敵のようにはいかない。
「我を失望させてくれるな。人間の刹那の時を切り取るのが我の至福なのだからな」
コイツはタダの殺人鬼や享楽的な奴ではない。
もっと邪悪な、他者の時間を踏みにじるのが愉悦と思うタイプだ。
「お前はそうやって何人の人間を殺してきた!」
「さて、貴様はわざわざ贄の事を考えて食すのか? 貴様とて家畜の育った時間やその家族の事をわざわざ考えて屠るまい」
マデンは人間を家畜程度にしか見ていないのだ。
そんなマデンにとって、人間と共に過ごした時間は屈辱とも思わない程度の時間だったのだろう。
私はマデンと何度も剣を斬り合った。
しかしお互いの剣は相手を弾くだけで、斬るまでは至っていない。
「クソッ! 手ごわい」
「クッハハハハハハ、人間にしてはやるものだな。我とこれほど長い時間切り結べた人間はおらんかったわっ!」
マデンは大声で笑いながら剣を振るった。
その剣圧だけで常人なら吹き飛びそうな勢いだ。
今戦っているのは私とマデンの一騎打ち。
ここに誰かが立ち入ろうとしても、確実に致命傷を受けるだけだ。
そして、ここは城の中、イオリ様は本当の姿も出せず魔法やスキルも使えない。
どうにかマデンを城から外に追い出さなくては。
「みんな! ここで戦うのは危険だ、ボクはコイツをどうにかする!」
「ユカ坊、ワシらはどうすれば良いのじゃ?」
こんな所で戦いが続けば、ホンド王の身体に危険が及ぶ。
「イオリ様、ホンド王を安全なところにお願いします!」
「わかったのじゃ、ワシにも考えがある。エリア嬢を借りるぞ」
「わかりました、お願いします!」
私はマデンを引き付けつつ、イオリ様に他の人達を任せた。
「皆の者、ワシはホンド坊を助けに行く。この場はそち達がくい止めるのじゃ!」
「イオリ様承知致しましたぞ!」
これで作戦は決まった。
マデンは私が引き付けつつ、どうにか中庭になる二の丸におびき出す。
イオリ様はエリアと一緒にホンド王の事を守りに行く。
そしてそれ以外の人達は、武士団や城のマデンに操られている人達を食い止める。
これでどうにか切り抜けよう。
「クッハハハハハハ、バシラの子孫よ。死ぬ前に名前くらいは覚えておいてやろう。名乗るがよい、貴様の刹那の時、我が摘み取ってやろうぞ」
「ボクはユカ。『ユカ・カーサ』だ! 英雄『バシラ・カーサ』の子孫、そしてお前を倒す者だ!!」
私は挑発目的として、あえてマデンに名乗った。
「ほう、ユカか。我が黒剣『刻食み』の露と消えるがよい!」
コイツの剣は『刻食み』というのか。
呪われた剣、アジトの『魂喰らい』と同じで一撃を喰らうだけで致命傷になりそうな剣だ。
コイツの一撃を喰らわないように戦わなくては。
「この廊下の床を流れる水にチェンジ!」
「ぬおおう!?」
マデンはいきなりのマップチェンジにより、廊下から中庭の二の丸に流された。
「貴様、一体何をした! グオオオウ、我の身体が溶けるだとっ!?」
今まで冷静だったマデンがいきなり狼狽した。
どうやらマデンの弱点は水らしい。
押し流されたマデンは黒い剣を突き立て、どうにかこれ以上流されないように食いとまった。
よし、これでマデンを外に追い出す事が出来た。
ここなら本気で戦う事も出来る。
◆◆◆
ワシはユカ坊に頼まれ、松の廊下を駆け抜け、大きなふすまの前に辿り着いた。
ふすまは少し触れただけで、痺れるような痛みが奔った。
「マデンめ……この場を封じよったな!」
「イオリ様、ここは私が」
「エリア嬢……何をするのじゃ?」
エリア嬢は封じられたふすまに触れると不思議な言葉を発した。
「ぬう、此れはもしや……古代の術法! 其方、もしや古代の民かや」
エリア嬢は小さくうなずくと、手を高く掲げた。
パキィンというギヤマンが砕けるような音がした後、ふすまを封じていたマデンの呪いは音を立てて砕けた。