260 マデンの企み
魔将軍マデン。
大魔女エントラ様が言っていた、魔王軍四天王の一人だ。
その強さはおそらくレベル80以上!
正攻法ではここにいる誰もが勝てないほどの強敵だ。
マデンは呪いの黒い剣を持っている。
どうやらこの剣は、触れた者に呪いを与える魔剣のようだ。
「クッハハハハハハ、ここにいる者全てに死を与えてやろう! そして我はこの国の真の覇王となるのだ!!」
「そうはさせない!」
「バシラの子孫か……憎々しい奴め!」
マデンが黒い剣を振るってきた。
私はそれを遺跡の剣で弾いた。
強い!
コイツは今まで戦ったどの敵よりも強い。
これが魔将軍なのか。
「ほう、我が一撃を弾くとはな。流石だと褒めてやろう」
マデンは全くの余裕である。
私達に負ける事なぞありえないと思い込んでいるのだろう。
◆
「……姉……上」
「リョウド! 気が付いたのかっ」
リョウクウさんが泣きながらリョウドを強く抱きしめていた。
「リョウド、リョウド……生きていてくれた。うう……」
「リョウクウ嬢や、今は感傷に浸っておる時間は無いぞ」
「え、ええ……わかりました」
リョウクウさんは涙をぬぐうと、ぐしゃぐしゃになった戦化粧の紅を指で横にぬぐった。
その見た目は隈取の様にも見えて、独特の美しさを出していた。
「マデン! 貴様は絶対に許さぬ」
「リョウクウ嬢や、奴に怒りや憎しみで戦ってはならぬ、魔道に引きずり込まれるぞ!」
イオリ様がリョウクウさんに忠告していた。
「はい、イオリ様。小生は気が動転しておりました。ありがとうございます」
リョウクウさんは刀を構えてマデンの元に向かおうとした。
「マデン! このミクニのため、貴様を……討つ!」
リョウクウさんがマデンの前に躍り出た。
「小生は『ミクニ・ホンド』が娘! 『ミクニ・リョウクウ』国に仇為す悪魔、マデンを討つ者なり!!」
「クッハハハハハハ、何を今更名乗っておる。リョウクウ様」
「ふざけるな! 貴様のその全てが偽りだった事はもうわかっている!」
マデンが高らかに笑っている。
「答えろ! マデン。貴様は何故……私に義や愛を教えた? また、国民は善政を父上に勧めたお前に騙されていたのか!」
「クッハハハハハハ、小さいな、そして幼い」
「戯言を!」
「よかろう。冥途の土産に教えてやろう。我の完全たる計画の全てをな」
マデンが黒い剣を廊下に突き立てた。
「我ら魔族の刻は永い。それに比べ、貴様ら人間の刻のなんという短き事か、まるでうたかたの夢よ」
「それがどうした!?」
「我にとってコクドの時代から、ホンドがこの国の統一にかかった刻なぞ……ほんの刹那に過ぎぬ。その程度の刻の間で我はこの国の人心を全て握る事が出来た」
「な……」
リョウクウさんがうろたえている。
「唯一邪魔者がいるとすれば、我と同じ刻を生きる龍神イオリくらいのものだ。それ故に我はイオリに我の正体を暴き人に伝えようとすると地獄の責め苦を与えるように呪いをかけた」
「なんという事を……イオリ様を!」
マデンは高らかに笑いながら話を続けた。
「クッハハハハハ! 永き刻を生きる者が我のみになれば龍神イオリを知る者は誰もいなくなる。そしてそれまでに、我がこの国の全てを掌握すれば……イオリは国に仇為す邪龍として忌むべき名となるのだ!!」
なんという計画だ!
このマデンという魔族、とてつもない長い時間を使い完全に国を奪い取る計画を立てていたのだ。
「そしてこの国は従順な国民が魔族の為に生き、魔族の贄となるのを喜びと学び、未来永劫我我はこの国の王として君臨し続けるのだ!!」
なんという地獄だ。
「ここで我の正体を知る貴様らを全て殺し、ホンド王も呪いで死ぬ。そうすればもうこの国で我に逆らう者は誰一人としていなくなるのだ! クッハハハハハハ!!」
マデンの笑いはいつまでも続いた。
私はその笑っているマデンの頭を狙い、攻撃を仕掛けた。
「むぅん! 甘いわぁ!!」
しかし、私の攻撃は宙を切った。