257 妖気漂う城へ
イオリ様は高く舞い上がると咆哮を上げた。
「皆の者、しっかりつかまっておれ!!」
イオリ様は私達全員を乗せ、風よりも早い速さでホンド王のいる城に向かった。
城に向かう途中で、私達を阻止するために空が見えないほどの数の飛翔型グレーターデーモンやレッサードラゴンなどの有翼系モンスターが出現した。
「どけいっ! キサマらごとき雑兵いくらおろうとワシの敵ではない! 早う去ね!!」
イオリ様が大きく息を吸い込み、一気に吐き出した。
すると、息は紫の突風になり、空を覆ってきた大量の空飛ぶ魔物をことごとく血煙に変えた。
「痴れ者どもが! ワシの行く手を阻むなぞ千年早いわ!」
本気を出したイオリ様は凄まじい強さだった。
グレーターデーモンはSクラスモンスター。
一匹いれば大きな街ですら壊滅させられるほどの化け物だ。
しかしイオリ様は、息一つでそのグレーターデーモンを一蹴するほどの力だった。
「皆の者、もうすぐじゃ。じきに城に着くからのう」
信じられない速さだ。
私達が龍哭山に向かった時は、一週間以上かかった。
それをイオリ様は一時間もかからずに城まで戻ったのだ。
城には武士達がいるはずだった。
しかし、私達が城に着いた時、迎えの者どころか、誰一人として人の気配を感じられなかった。
「むう、一足遅かったか」
「イオリ様、それはどういう事でしょうか?」
「マデンはすでにこの城の全てを乗っ取っているという事じゃ。人の気配が一人もしない、これは……マデンの妖気で人が人ならざる者になっているという事じゃ」
「何という事を……」
最悪の事態だ。
マデンはすでにこの城の全てを奪っていた。
ゴグマゴグはその時間稼ぎに過ぎなかったのだろう。
「イオリ様、リョウドはどちらにおりますか!?」
「リョウクウ嬢よ、ワシもそれはわからん。しかし……この城を包む妖気が大きすぎてワシの髭がビリビリと痺れておるわ」
イオリ様が少し苦しそうな声を出していた。
「だ、ダメじゃ!! もう持たんっ!! このままの姿で妖気を吸ってはワシの身体が持たんわい!!」
イオリ様の姿が空中から消えた。
私達は地面に放り出される形になってしまった。
このままでは全員が地面に激突する!!
「この真下の土地を大きな池にチェンジ!!」
ドボーン!!
全員が池に落下した。
幸い、ケガ人は一人も出なかったようだ。
しかし、マップチェンジが出来ていなかったら全員致命傷だった。
「ユカ坊。すまぬ……」
龍神から少女のアンの姿になったイオリ様は、私に頭を下げた。
「いいえ、大丈夫ですよ」
「かたじけない、ワシの力が使えないとなると……この戦、かなり難儀な事になるのう……」
リョウカイさんが天守閣を指さした。
「父上をお助けする! そして、リョウドを阻止する」
「兄上……もし、リョウドがマデンに操られたまま元に戻らなければ……」
リョウカイさんが目を閉じ、再び目を開いた。
「その時は吾輩が……リョウドを……斬る!!」
リョウカイさんの銘刀海神を握る手が震えていた。
そうはしたくない。だが、国や人々の為にはその手を血に染める覚悟なのだろう。
「とにかく天守閣に向かおう!!」
私達は城の中を突き進んだ。
「ウグアアアアア!!」
城の中には操られた武士団が大量にいた。
「リョウカイ坊、リョウクウ嬢、こ奴らは操られているだけの人間じゃ! 決して斬るではないぞ、斬れば其方らも魔道に堕ちる」
アンの姿のイオリ様が二人に叫んだ。
「心得ましたぞ!」
「承知致した!」
二人は巧みな剣さばきで並みいる武士団を峰打ちにしていった。
「戦わないやり方ならあーしに任せてっ!! 茨の呪縛」
マイルさんの蔦が武士団を絡みつかせ、身動きできないようにしていった。
「獣たちよ、こいつらを止めてくれ!」
フロアさんが呼んだ城で飼われていた猛獣達は、武士団を食い止めた。
シートとシーツも戦ってくれている。
「ワシも手加減せんとのう……痛撃!」
イオリ様は指先から細い雷を出すと、武士団を痺れさせてその場で気絶させた。
多分これはスタンガンくらいの威力なのだろう。
私達は武士団を切り抜け、天守閣を目指した。