256 黒き剣
リョウドさんが黒い剣を突き刺し、ゴグマゴグの心臓を貫いた。
「グガアアアアアオオオオオオおあああ!」
ゴグマゴグの様子がおかしい。
ゴグマゴグは二人が合わさった姿のまま、二つの頭で言葉を発した。
「なぜだぁあああマデン様ぁああー!!」
「黒い剣、マデン様、何故ワシらをぉぉおおー」
ゴグマゴグは絶命する寸前に、正気を取り戻したようだ。
だが、何を言っているのかが意味が分からない。
リョウドさんがゴグマゴグを貫いた黒い剣は、ゴグマゴグの身体から噴き出している黒い煙をその刀身に吸い込み続けている。
「兄上、姉上……やりました、余が邪悪なる者を倒したのです……クッハハハハハハ!」
黒い剣に全ての邪気を吸い取られたゴグマゴグは干からびて粉になり、砕け散った。
「むう、やったようじゃのう」
「イオリ様! 小生達がゴグマゴグを倒しました」
「うむ、ご苦労じゃった」
武士団は勝どきを上げていた。
そして、ゴグとマゴグに捕まり拷問を受けていた村人達は全員が解放された。
「ここにいる傷つきし者達を……癒したまえ、レザレクション!!」
エリアのレザレクションのスキルで、傷ついた村人や武士団が全員治癒された。
「うウグ……気持ち……悪い」
「リョウド! どうした」
「あ、姉上……大丈夫、です……戦で疲れたんです」
「そうか、リョウド。お前がゴグマゴグを倒したんだ。よくやったぞ」
リョウクウさんがリョウドを褒めて頭をなでようとした。
しかし、リョウドさんはそれを跳ねのけた。
「姉上、予はもうガキではありません! ガキ扱いはやめてくれ!」
「リョウド……」
リョウクウさんは跳ねのけられた手を見ていた。
「リョウド! その態度は何だ!! リョウクウに謝れ!」
「兄上……余は強くなるんです。いつまでも兄貴風を吹かせないでください!!」
「リョウド、お前一体どうしたんだ!!」
リョウドさんは黒い剣を握ったまま、手放そうとしなかった。
「余は今から父上の元に行く。本当の後継者が誰かハッキリさせるために!」
「リョウド、お前は一体どうしたんだ!?」
リョウドさんがいきなり空中に浮いた。
「余は力を手に入れた……この黒い剣は覇王の剣。余はミクニだけではない……この世の全てを支配する!」
「リョウド! 正気を取り戻せっ!!」
「うるさい姉上ですね……少し、黙ってもらいましょうか!」
リョウドが黒い剣を振るった。
すると剣から放たれた黒い光がリョウクウさんを襲った。
「クウオオオオオオオーーン!!」
「ランザンッ!!」
リョウクウさんをかばったのは飛龍のランザンだった。
「リョウド! いくらお前でも許さんぞ!!」
「クッハハハハハ、余はこの世界の王になるのだ!! その前に立ちふさがる者は全て……殺す」
「リョウド!」
リョウドさんは黒い剣を振るうと空間を切り裂いた。
「さらばだ……貴様らとは二度と会いたくないものだ」
リョウドさんは斬り裂いた空間の中に消えた。
「リョウドォーーー!!」
リョウクウさんの悲痛な叫びが辺りに響いた。
「むう……アレはマデンじゃ」
「イオリ様、アレがマデンとはどういう事ですか!」
「あの黒い魔剣、アレから感じた邪気はマデンのものじゃ……」
なんという事だ。
リョウドは強くなりたい気持ちを利用され、マデンの悪意が込められた魔剣を握ってしまったというのか。
「ユカ坊! 皆の者! ワシの背に乗れ。急ぐのじゃ!!」
「イオリ様、ランザンが!」
「大丈夫じゃ。飛龍はあの程度で死にはせぬ。しばしここで休んでおれ」
「クオオオン」
「ランザン坊よ、動けるようになったら龍哭山のドウコクの元に行くがよい」
「クオオン」
飛龍ランザンは傷を癒すため、その場で眠りについた。
「皆の者よ、今より神速で飛ぶぞ! しっかり掴まっておれ!!」
イオリ様が高く咆哮をあげ、大空に舞い上がった。