255 小さき武士
◆◆◆
余の名は『ミクニ・リョウド』
偉大なる覇王『ミクニ・ホンド』の第二王子である。
余は、生まれながらに王子として育った。
父上の時代は乱世であり、兄上や姉上もまだその乱世の残りがあった時代だった。
しかし、余が生まれたのは乱世も終わり、安寧の時代の事だった。
余を生んだ母上は、余が小さき頃病によりこの世を去った。
しかし余が寂しいと思った事は無かった。
何故なら姉上や父上、兄上に民草の者達全てが、余を愛してくれている。
余はこの国が好きだ。
しかし、今は乱世ではない。
乱世なら武人として戦う事が国の為になるだろう。
だが余は勉学を選んだ。
より多くの事を学ぶ事により、国を豊かにする。
それが余の選んだこの国を幸せにする事だと思っていた。
しかし余は母上と同じで病弱だった。
すぐ病に倒れては、姉上や民草に心配をかけていた。
中でも一番余を心配してくれたのは、太政大臣のマデン殿だった。
……信じたくない、あのマデンが魔の者で、余の敵だったなんて。
しかし、今兄上や姉上が戦っているのは、マデンの手下のおぞましい魔物なのだ。
余はなんと無力なのだ……兄上や姉上の助けになれないこの非力さが憎らしい。
『力が欲しい!』
そう願った時、余の前の地面に、黒い剣が突き刺さっているのが見えた。
「この剣があれば!」
余は剣を引き抜いた。
黒い剣は慟哭にも似た音を巻き起こし、余の手にしっかりと握られた。
「姉上ー! 今助けますっ」
剣を握った余は兄上を呼んだ。
「兄上ー!」
余は走って巨大な魔物の元に向かった。
◆◇◆
私はイオリ様が締め付けたゴグマゴグと戦っていた。
「グッガゴオオオオオオ!!」
ゴグマゴグの巨体がおぞましい雄たけびを上げる。
その雄たけびは地面を揺るがすほどだった。
「みんな、足を狙うんだ!」
私はリョウカイさん、リョウクウさん、カイリの三人にゴグマゴグの足を狙うように指示した。
「了解ですぞ!」
「わーったよ!」
「了解しました!」
全員がゴグマゴグの足をそれぞれ一本ずつ倒す事にした。
私は手前側の右足を狙った。
遺跡の剣がゴグマゴグの足を切り裂く。
だが、まだ致命傷にはなっていない。
「目の前の地面を2メートル程深くチェンジ!」
「グガガアアア!??」
ゴグマゴグの足が陥没した地面にはまり込んだ。
私はゴグマゴグの膝の上から、動けなくなった足めがけて遺跡の剣で深く切りつけた。
「たぁあああ!!」
「ゴグァアアアア!」
ゴグマゴグの右前脚が膝上から切り飛ばされた。
「おっと、こっちもだぜー!!」
カイリの大槍がゴグマゴグの左後ろ脚を断ち切った。
「ガガガガァアアア!!」
そして、リョウクウさんの槍はゴグマゴグの右後ろ脚の下に刺さった。
「とりゃアアア!!」
槍は梃子の原理で持ち上がり、ゴグマゴグの巨体が斜めに傾いた。
「グッフゴゴ??」
「銘刀海神よ、今こそその力を……水平斬!」
リョウカイさんの銘刀海神がゴグマゴグの左前脚を水平に斬り断った。
「ギャゴゴゴオオオ!!!」
三本の脚を失ったゴグマゴグは、もうその場で武器を持った腕を振るうしかできなかった。
「どれ、ワシも本腰で力を入れようかのう!!」
イオリ様が胴体の締め付けをさらに強く絞り込んだ。
ゴグマゴグの黄金の鎧がヒビだらけになって砕けていく。
「グガアアアッガガ!!!」
ゴグマゴグはもう瀕死だった。
そんなもう動けなくなったゴグマゴグの前に、走ってきたリョウドさんが現れた。
リョウドさんはゴグマゴグを縛り付けていたイオリ様の龍の身体をよじ登った。
「余は……ミクニ・リョウド。余もこの国の武士なり! この剣で悪しき魔物を討つ!」
「リョウド坊、何をするか。危ないからやめるのじゃ!!」
リョウドさんはイオリ様の制止を聞かず、龍の身体をよじ登った。
「これで、悪しき者を討つ!!」
「ギャギャギャーーーーーーーーアアアアア!」
リョウドさんは手にした黒い剣で、ゴグマゴグの心臓を貫いた。