249 千人将のゴグとマゴグ
今回からまたミクニ内乱の話になります。
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吾輩は征討大将軍として妹のリョウクウを討つため、軍を進めていた。
その前に二人の偉丈夫が立っていた。
筋骨隆々の黄金に漆黒の縁の豪奢な鎧を着た二人だ。
一人は武士五人で抱えるくらいの大剣を持ち、もう一人はそれと同じくらいの大斧を持っていた。
「おお、リョウカイ大将軍。お越しをお待ちしておりましたぞ」
大男が地に響くくらいの大声を出した。
「身共は千人将のゴグと申す。この者は弟のマゴグ」
「身共はマゴグ、よろしくお頼み申す」
「おお、其方らがゴグとマゴグか。よろしく頼む」
「「はっ!」」
ゴグとマゴグの二人は吾輩に深く頭を下げた。
この者達は父上の時代からの将であり、太政大臣マデンの忠実な部下だ。
「リョウカイ大将軍。貴方様が来る前にこの辺りの大掃除は終わらせております故」
「大掃除だと?」
「はい、国に仇なす害虫共の駆除に御座います」
吾輩は嫌な予感がした。
「ゴグ。マゴグ。それはどういう事だ」
二人は笑いながら話し出した。
「この辺りにあった村は逆賊リョウクウを匿っていた不穏分子の巣窟故、全てを焼き払ったまでの事で御座います」
「何だと!? それは……貴様ら女子供まで焼いたというのか!?」
「大将軍は戦を知りませぬな。野伏とは聞いた事がありますかな?」
ゴグが吾輩を見下すような言い方で問いかけてきた。
「野伏だと?」
「左様、野伏に御座います。野伏とは、国に害為す害虫。その姿は女子供の姿をして国に蔓延るので御座います。野伏を残せばいずれは国という大樹を蝕む成虫となり、大木を枯らします」
つまり……この者達は、女子供すら敵とみなして殺すというのか!
「だが民草を焼くは暗君のする事! 民草は育てるべきものだ」
「だから若は甘いのです。これは太政大臣マデン様の命に御座います」
マデン……民に慕われ、父上の忠臣として仕えていたあの者が何故このような事を。
「だが許さん。吾輩が大将軍である限り、これ以上の愚行は許さん。捕えた村の者達をすぐに解放せよ!」
ゴグとマゴグが笑っていた。
「無駄で御座います。もう処刑は始まっております故。大将軍にはこの槍を持って磔刑を行っていただきましょう。もし断るのでしたら」
「断ると……どうするというのだ!?」
「リョウクウ様はあれで王族。もし生身で捕らえたとして王族らしく虜囚として生かす事も出来ます。ですが、もしここで大将軍が磔刑を行わないなら……」
「まさか……!」
マゴグが大斧を振りかぶった。
「この大斧の露としてその儚き命を散らす事になるでしょうな!」
吾輩は避ける事の出来ない選択を突き付けられた。
民草を助ければ妹は斬首。
民草を処すれば妹は延命。
「さあ、悩んでいる時間はありませぬぞ。大将軍。将として正しい選択を選ばれよ」
吾輩に大槍が渡された。
吾輩は今までに敵や魔物を倒した事は数知れない。
だが、それは悪意を持った敵、向かってくる相手を露払いしたに過ぎない。
それをこのゴグとマゴグは、吾輩に罪なき民草を血に染めろと言っている。
それが出来なければ血を分けた妹が斬首される。
吾輩は目の前が真っ暗になった。
「大将軍、貴方が手を出せないというなら身共が磔刑を行う故、そこで指をくわえてみているのですな!」
ゴグが大槍を構えた。
大槍は磔にされた子供を狙おうとしている。
「たすけてええええええー」
子供の声で吾輩は父上の言葉を思い出した。
『リョウカイよ。これを覚えておけ。人は石垣にて城也。つまり、人を大事にする事は国という城を立派にする事だ。人を疎かにする国で長持ちした国は無い』
リョウクウよ! 許せ、民草を見捨てるわけにはいかない!
吾輩はゴグから槍を奪い、ゴグの体に突き刺した。
「ぐががぁあ……ぁ りょう…か」
ゴグがその場に倒れた。
この選択が正解だったかどうかは分からない。
だが、目の前の無実の子供が殺されるのは阻止できた。
「ク……クックック……キサマは一番正しい選択をしたと思っておるのだろうなぁ……だがそれが一番愚かな選択だったと思い知るがいい」
何故だ!?
刺し殺されたはずのゴグが死んだまま、言葉を発した!?