245 大魔女の意外過ぎる一面
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お師匠様は大人げもなく泣いていた。
せっかく大悪魔に望みをかなえてもらった砂糖の山が、跡形もなく吹き飛んだからだ。
「あの……お師匠様?」
「びえええええーーーん」
ダメだこりゃ。
しかしこれが世界最強の大魔女だといって、誰がこんな姿を想像できるやら。
僕とルームが困惑していた時、結界の消滅した城の奥から従者が現れ、棒付きの大きな飴をお師匠様に渡した。
「えぐっっ、えぐっ……」
飴をほおばったお師匠様はどうにか泣き止んだ後、ジトーとした目で見ていた僕とルームの視線に気が付いてしまったようだった。
「あら……見てたのねェ……」
「見てましたよ、一部始終」
お師匠様は杖を突きつけてきた。
「良いかねェ。今ここで見た事は絶対……他言無用だからねェ!」
お師匠様の威厳が、僕の中で音を立てて崩れ落ちていく。
僕は怖いとか呆れるというよりも、笑いがこみ上げてきて止められなかった。
「ぷ……くっくっ。言いませんよ、誰にも言いませんってば」
「お師匠様……あんな可愛いとこがあるなんて……私ますます好きになりましたわ」
お師匠様が顔を真っ赤にして座り込んでしまった。
「もー! 嫌だーァッ!! 忘れてェーーー!!!」
◇
落ち着いたお師匠様がようやく冷静な状態になった。
「さっきはとんでもないとこを見せてしまったねェ……」
「大丈夫ですって、誰にも言いませんから」
「それならいいんだけどねェ」
お師匠様はまだふて腐れていた。
人間危機的状態になると本性が見えるというが、あれが本来のお師匠様だったのかもしれない。
「妾。何か妙な事言ってなかったかねェ……」
どうやら、自分の事を妾と言っているのも作っている姿のようだ。
「いいえ、特に。単に自分の事をアタシって言って砂糖が無くなったって泣いてたくらいです」
それを聞いたお師匠様の顔が真っ赤になっていた。
「わ。忘れてェ! 何でもしてあげるから今言ったこと忘れてェ!!」
どうやら僕達が見てしまったのは、相当人に見られたくない姿だったらしい。
「忘れないというならぁ……存在ごと抹消するまでの事だからねェ」
「わー!! 言いません!! 絶対に言いませんって!!」
「私も神に誓って絶対に言いませんわっ!!」
こんなところでメテオフォール級の魔法を使われたら確実に死ぬ!!
お師匠様は必死な僕達を見て杖を収めた。
「すまないねェ。昔の悪い癖が出てしまったみたいだねェ……」
お師匠様が凹んでいた。
「アタシもまだまだだねェ……アイツを見て、昔を思い出してしまったからねェ」
どうやらお師匠様とあの魔将軍ゲートは知った顔らしい。
今はまだそれについて聞くべきではないだろうから、あえてそのことには触れないようにしよう。
「そうだ、二人共。もう体の方は大丈夫かねェ?」
「は、はい。今のところ問題はないです」
「私も問題ありませんわっ」
お師匠様は私達を見てにっこり微笑んだ。
「それは良かったねェ。では今のうちに出かけるとしようかねぇ」
「お師匠様、どちらへ行くんですか?」
「ふもとの村に行って、砂糖を買ってくるからねェ。二人共、持ち役頼むからねェ」
今からふもとの村に行く!?
どうやってあの山を下りるんだ?
「お師匠様、何日かかるんですか?」
「そうねェ。急がないといけないので……今日中には帰ってくるかねェ」
今日中!?
どう考えても今から行って今日中に帰れる距離ではない。
しかしお師匠様は杖を掲げて門を開いた。
「さあ、おいで。クリスタルドラゴン」
お師匠様がクリスタルドラゴンを召還した。
そしてその背中に乗ると僕達に手を差し出してきた。
「さァ、一緒に来るんだねェ」
僕達はお師匠様の手を取って、クリスタルドラゴンの背中に乗せてもらった。
「さて、フルスピードで行くからねぇ!」
舞い上がったクリスタルドラゴンは凄いスピードで僕達を乗せたまま、あっという間にふもとの村に到着した。