241 身動き一つとれない
「ほう、これだけ全身縛られて動くところがあるというのですか」
お師匠様が出まかせを言うとはとても思えない。
「さあねェ。どうだろうねェ」
「ではその減らず口を封じさせてもらいますよ!」
そして大悪魔の触手が、お師匠様の口にねじ込まれた。
「わかりますよ、貴女ほどの魔女だ。貴女は口だけでも魔法を発動できると言いたかったのでしょう。ですのでその口、封じさせてもらいました」
ダメだ、いくらお師匠様でも魔法が唱えられなければ、手も足も口も出ない。
だが、お師匠様は動けない体でも、全く諦めていないようだった。
「素晴らしいですよ、貴女を是非とも私の眷属に迎え入れたいくらいです。特別待遇はお約束しますよ」
お師匠様は目で大悪魔に拒否を伝えた。
「おやおや、残念です。ではやはりここで死んでもらいましょうか」
大悪魔の触手が集まり大きな一本の槍のようになった。
「残念です。私は貴女のような立派な女性が好きでしたのでね」
もうダメだ……お師匠様すら手も出せない、僕は触手相手に苦戦している。
その上、ルームは大悪魔の魔法で吹き飛ばされて気を失っている。
ユカ様……僕たちはもうここまでかもしれません。
そう全てを諦めかけていた時、お師匠様の身体に不思議な事が起きた。
「さようなら、偉大なる魔女よ」
大きな槍がお師匠様の身体を貫こうとした、その時!
お師匠様の杖が大悪魔の触手槍を弾き飛ばした。
「!? な、何ですって……何故動けたのですか?」
お師匠様の身体は縛られていて、口も封じられている。
では一体どうやって杖を……。
僕は目の前の光景を見て驚愕した。
お師匠様は、杖を長い髪の毛で動かしていたのだ。
杖はその先端から魔力を飛ばし、大悪魔の触手を焼き砕いた。
「ハァ……ハァ……少し、キツかったねェ」
「お見事ですよ……まさか、髪の毛で杖を操るとは」
「プロテクトウォール」
お師匠様は空中高く飛ぶとプロテクトウォールの魔法を発動した。
これで大悪魔もそう簡単に攻撃はできない。
「ホームくん、少し伏せるんだねェ」
「は、はいっ」
僕はお師匠様の指示通りに伏せた。
「妾を怒らせるとは……アンタ、本気で潰すからねェ。覚悟するんだねェ!!」
「面白い、異界の魔女の真価、見せてもらいましょう」
お師匠様は高く掲げた杖で空に空間の門を作った。
「これは天空の門、ここからアンタにプレゼントだよ!!」
お師匠様が高く杖を掲げた。
「これは天空の星々の欠片だからねェ! メテオ……フォォォール!!!」
「な……何だと!?」
お師匠様の絶対究極魔法が発動した。
しかも今回は広範囲を壊滅させる形ではなく、門の中から一点集中で大悪魔だけを狙った形だ。
S級モンスターを一瞬で灰燼にするほどの絶対究極魔法。
流石の大悪魔もこの攻撃を食らっては、ひとたまりもあるまい。
「グアアアアアアアッッッ!!」
今まで悲鳴一つ上げなかった大悪魔が、凄まじい絶叫を上げていた。
「やった……お師匠様の魔法が、大悪魔を……倒した」
「ホームくん、まだ油断はできないからねェ」
お師匠様が息も絶え絶えだ。
世界一の魔女ですら、あの大魔法は身体的にも精神的にも負担が大きすぎるようだ。
「く、油断……しましたよ。まさかこれほどの魔法を使えるとは……」
大悪魔がボロボロだった。
しかしそれでもまだ生きている、これが異界最強の大悪魔。
そして大悪魔は再び触手を伸ばしてきた。
「流石にエネルギーを使いすぎましたのでね。ここらへんであなた方を吸いつくして回復させてもらいますよ」
僕は剣で触手を切ろうとした。
「無駄です、諦めなさい」
僕は全身を触手に絡め取られてしまった。
お師匠様も全身が捕らわれている。
今度は髪の毛までもががんじがらめで、今度こそ髪の毛すら動かせない。
気絶していたルームも、触手に捕らわれてしまった。
「あなた方は素晴らしい敵でしたよ。是非とも三人とも私の眷属にしたいくらいです」
僕達は……今度こそ最後だと思い知った。