240 三対一の絶望
◆◆◆
錬金術師の噴霧したのは菌と呼ばれる毒素の塊だった。
この菌に侵された物は腐食していく。
切られた触手やドラゴンの尻尾がどんどん変色し、腐臭を放っていた。
「なんて臭いですの」
あまりにも凄まじい臭いが辺りに立ち込めた。
あの屍肉ゴーレムに比べればマシとはいえ、この臭いはそう耐え続けれるものではない。
早く錬金術師を倒さなくては。
「行きますわよ。覚悟するのですねっ」
私はテラス様の杖を構えた。
このホムンクルス相手には、接近戦は自殺行為。
遠距離から確実にその能力を奪わなくては、その怪力でねじ伏せられてしまう。
私は勝つ方法を考えた。
トライディザスターは、消費魔力が大きすぎる。
グラインドランペイジハンマーは、雷球を作るのに時間がかかる。
あれ程の強敵がボルガニックフレアだけで倒せるとは限らない。
どれも大技ばかりで隙が大きい。
もし隙の大きい攻撃を仕掛けていてあの大悪魔に攻撃をされたら、ひとたまりもない。
ここはあえての接近戦!
「エアリアルバースト!」
私は自らの身体を錬金術師の前に弾き飛ばした。
そして体当たり、こんな物で吹き飛ぶわけがないのは分かっている。
だがそれでいい。
前に出るのが目的だった。
「テュポーンテンペスト!」
暴風と水しぶきが空中に錬金術師を巻き上げた。
そしてその直後、私は杖を構えた。
「インドラフレッチャー!!」
インドラフレッチャーはトールハンマーに比べて威力が劣る。
だが、矢の形の稲妻は連射が可能だ。
私はインドラフレッチャーを可能な限り連射した。
その数……10本以上。
水で全身がびしょ濡れになった錬金術師は、その小さな体に10本以上の雷の矢を喰らい、そのまま落下した。
そして、戦闘力を失った錬金術師は戦闘不能に陥った。
◆◆◆
「……まさか、全員がやられるとは。仕方ありません、私がお相手致しましょう!!」
僕達は三人で戦い、SS級モンスターを全部倒した。
それを見ていた大悪魔は怒り心頭だった。
「それでは……行きますよ!」
大悪魔は手を広げた。
「我が触手よ……伸びろ」
大悪魔は触手を伸ばし、お師匠様の全身を捉えた。
「くっ! 動けないなんてねェ」
「無駄ですよ……レベルが違いますからね」
なんという事だ、お師匠様が一歩も動けない。
あれだけ最強のお師匠様が大悪魔の触手に捕らわれ、指先一つ動かせなかった。
「まだですよ、貴方の相手もしなくてはね」
大悪魔は触手を鋭い刃にして僕の四方八方から襲いかかった。
僕はそれを弾き続けた。
「なっ、なんという攻撃だ!」
「では行きましょうか……サウザンドスラッシュ!!」
四方八方から襲いかかった触手の刃は僕の全身を鋭く斬り裂いた。
どうにか体を避ける事で致命傷は避けているが、一撃がどれも鋭く切りつけてくる。
「お兄様、私が助けます」
ルームが魔法を唱えようとした。
「インフェルノブレイズ」
だがそれよりも先に大悪魔の青い大火炎がルームを包んだ。
「バリアフィールド!」
とっさにルームの張ったバリアフィールドが、大悪魔の魔法により一瞬で破壊された。
「ぐはぁあっ!!」
ルームが青い炎に吹き飛ばされた。
この大悪魔は……とてつもなく強い。
僕達三人を同時に相手して、僕達が全く相手にならないレベルだ。
なんという強さだ……レベルが違いすぎる。
魔将軍とは、この大悪魔と同等の強さなのか……。
僕は絶望を感じた。
「あなた方は人間にしてはよく頑張りました。ですが、私の敵ではありませんでしたね、残念です」
大悪魔はニヤリと笑っていた。
これが異界最強の大悪魔……勝てるわけがない。
「まだ……まだだねェ……」
お師匠様は動けない身体で何か手を打とうとしていた。
「無駄ですよ、貴女は指一つ動かせませんから」
「指はね……でもねェ……まだ動くところはあるんだねェ」
「何ですって?」
お師匠様の目が光った。