239 二つの糸を断ち切れ!
◆◆◆
お師匠様はSS級モンスター、バンパイアロードの魔力を全て奪いつくした。
「さて、次はどいつかねェ」
その時、竜巻を切り裂いてライオンの獣人がお師匠様の前に飛び出て来た。
「くッ!!」
流石のお師匠様も傷を受けてしまった。
頬と胸から赤い血が流れている。
どうやらお師匠様は、あれだけの魔力を持っていても、魔族や亜人ではなかったようだ。
「やるねェ……妾に傷を与えたのは、ここ数百年だとヘックスのバカとお子様なイオリ以外じゃアンタが三人目だねェ」
お師匠様は血を舐めて笑っていた。
その表情は魔女というにふさわしい形相だった。
「では……妾も魔法のフルコースでおもてなししないとねェ!」
お師匠様が杖を掲げた。
「グラビティーフィールド」
ライオンの獣人が重力の波に押しつぶされた。
だが、それでもライオンの獣人は普通に動こうとしている。
「流石だねェ。普通ならギガンテスやドラゴンでも指一本すら動かせないというのに」
ギガンテス、ドラゴン、どれもS級モンスターの名前である。
そのS級モンスターすら一歩も動けないはずの重力波を受けながらあのライオンの獣人は動いているのだ。
「では、これならどうかねェ。グラビティーリバース」
今度はライオンの獣人が空中に放り出された。
重力波を反転することで空中に相手を放り出し動けなくしてしまったのだ。
「さあ、究極の魔法をあげるからねェ! スター……ゲイザァー!!」
空中に放り出されて動けないライオンの獣人目掛け、天空高くから極太の星の光が降り注いだ。
大量の光線に貫かれたライオンの獣人は戦意を失い、地面に落下した。
「ハァ……ハァ……。本気を出さないと勝てなかったねェ」
お師匠様が肩で息をしていた。
このライオンの獣人はそれほどの強敵だったのだ。
「素晴らしい、想像以上ですよ。まさか人間がここまで私の部下を痛めつけてくれるとは……許しませんよ!」
大悪魔の表情に余裕がなくなった。
凄まじい圧力を感じる。
だが僕は、目の前の敵に応戦するだけで手いっぱいだった。
鬼と女騎士、二人ともとんでもない強さだ。
僕が受け流しやカウンターでの戦い方を知らなければ、もう十回以上は死んでいただろう。
「くっ! 手ごわい!!」
僕は起死回生を狙う事を考えた。
しかし下手に動いては自殺行為だ。
心を落ち着け、相手の動きを感じるんだ。
……僕は心を落ち着ける事で、相手の動きに糸が見えた。
この糸は相手の動きを意味する。
糸は複雑なようでそれでいて確実に無駄なく動いている。
その糸を断ち切る事が出来れば、二人とも同時に倒せる。
僕は精神を集中した。
真っ暗な中に赤い糸と青い糸が見える。
赤い糸は鬼、青い糸は女騎士だ。
この糸が重なるタイミング、そこを狙う。
それからも猛攻は続いた。
僕の体力もこのままでは限界に到達する。
勝負は一度きり、これで負ければもう後はない。
僕は糸の重なる瞬間を待ち続けた。
今だ!
「レジデンス流、究極奥義! 縦横無尽斬ッッ!!」
僕の魂の救済者は一瞬だけ重なった二つの糸を同時に断ち切った。
「やったっ!! ついに斬れた!!」
縦横無尽の斬撃は鬼と女騎士の武器を粉々に打ち砕いた。
そしてその斬圧は二人の防具も吹き飛ばした。
「くっ! 二人共、退きなさいっ」
大悪魔が戦えなくなった二人を呼び寄せた。
勝った、後は残っているのは錬金術師と大悪魔だけだ。
◆◆◆
私は絶対究極魔法トライディザスターでドラゴンを倒した。
残っているのは大悪魔と錬金術師だけだ。
私は錬金術師がどこにいるのかを調べた。
錬金術師はドラゴンの下敷きになった後、自力で持ち上げて脱出していた。
そして再び瓶を取り出し、辺りに霧として噴霧した。
「クッ これは何ですの!?」
私の身体に異変が見えた。
これは……腐食型の猛毒だ。
「ピリフィケイション!」
私はとっさに体の毒を浄化した。
これが間に合っていなければ即死だったかもしれない。
その証拠に斬られた触手や斬られたドラゴンの尻尾がどんどん菌に侵されて腐っていた。