225 同じベッド
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「お師匠様、この料理は?」
「コレはねェ、ミクニの調味料、ショーユ、とミリンを砂糖で味付けしたテリヤキってやつなのねェ。やはり甘いって美味しいのよねェ」
僕達はお師匠様の従者に作ってもらった食事をしていた。
この味は確かに美味しい。
パリッとした鳥の皮に甘さと辛さがマッチした黄金色に焼かれた鳥肉は疲れた体に優しい味だった。
ルームがマナーを忘れたかのように鳥のテリヤキを手づかみで食べていた。
こんな鬼気迫ったルームを見るのは初めてだ。
「ルームちゃん、そんなに焦らなくても食事は逃げていかないからねェ」
「強くなるんです! 私は強くなるために食べるんですわ。……もうあんなブザマな負け方はしたくありませんから!!」
ルームはなすすべもなく、一方的に敵にやられたのを相当悔しがっていた。
「!? ゲホッ! ゲホッゲホッ」
「ほらー、焦っちゃダメねェ。何事も焦ると良い結果でないからねェ」
「私、強くなりたい……ですわ」
ルームは食事しながらも涙目になっていた。
普段自信家のルームがここまで折れたのを見るのは、僕も初めてだった。
「二人共、今日はゆっくり休むんだねェ。部屋は同じで良いねェ」
僕達は食事が終わり、お風呂でゆっくり休んでからお師匠様の用意した寝室に移動した。
ベッドは僕の分とルームの分の二つが用意されていて、それぞれが別々に寝られるようになっていた。
疲れていた僕達はそのままベッドに横になった。
僕達は、二人共がベッド越しに顔を見合わせていた。
「お兄様……私、強くなりたいですわ」
「ルーム、僕もだよ……ユカ様はどこであんなに修行をしたのだろうかね」
「あの方は特別ですわ、生まれ持った才能があるのですわ……そうでなければ、あんなに常人離れした強さ……ありえませんわ」
「ユカ様ならドラゴンでも一人で倒せるからね、アレは神に与えられた才能ってものなんだろうね」
僕達はユカ様の強さを尊敬しつつも、二人共嫉妬を感じていていた。
生まれ持った才能、それがあるからこそあそこまで強くなれた。
でも僕達は違う、それなら努力して強くなるんだ。
魔法の才能の無かった父上は、お師匠様の特訓のおかげで最強の騎士になれた。
それなら僕も出来るはずだ。
「お兄様、そばにいっていいかしら?」
「うん、おいで……」
僕達は小さい時のように、二人で手を握り合って寝る事にした。
「お兄様、私が夜寝れなくて不安だった時……こうして一緒に寝てくれましたね」
「うん、ルームが怖い話を聞いて、オバケ怖いって泣いてた時だったよね」
「私、不安があるとすぐにお兄様に頼ってた」
「僕も、ルームが頼ってくれるって思うから強いフリが出来ていただけで、あの時本当は怖かったんだ。」
「「ハハハハハ……」」
二人で他愛ない昔話をしていると、不安や疲れが少しやわらいだ。
「ルーム、あの敵を倒す為には魔法を撃つだけじゃダメだね、タイミングと方法を考えないと」
「お兄様、あのクリスタルのドラゴン、ユカ様が倒した方法は使えないかしら」
「それは……?」
「一気にあのクリスタルを砕いてしまうのですわ」
「それが出来れば苦労はしないよ……」
でも確かに、クリスタルを一気に砕く方法が見つかればあの敵は倒せる。
明日、試してみよう。
「私も明日、考えた事を試してみますわ」
「ルーム、頑張ろうな」
「ええ、お兄様も」
そして僕達は同じベッドで眠りについた。
◇
「二人共、もう朝だからねェ。朝食を食べたらまた修業を始めるからねェ」
今朝の食事は砂糖を溶かした玉子をつけて焼いたパンに甘いシロップをかけた物だった。
そして、食事を終わらせた僕とルームは昨日と同じ敵と戦う為に修行場に移動した。
「さあ、今日の修行開始だからねェ!」
もう昨日のようなブザマな負け方は出来ない!