222 紫の龍神イオリ
「なっ!? ユカ坊、何時からワシが龍神イオリじゃと気付いておったのじゃ?」
「……あのー、ハッキリって嘘が下手すぎて、すぐ気が付きました。まずはそのユカ坊って言い方ですね。どう見ても自分より年下の見た目の女の子が言う言い方でないですし」
「しまったぁあああ! ワシとしたことがああー!!」
イオリは顔を真っ赤にしていた。
この見た目だけなら、確かに子供だと言っても通用しそうではある。
「それに、イオリ様は紫の龍神と聞いていたのに、話で出てきたのは赤い龍でしたし」
「ふむ、それはワシの育ての親のドウコク殿の事じゃな」
「それ以外にもホンド王と昔からの知り合いのような話し方もしていましたから」
「あーもーワシの負けじゃ負けじゃ! もういいわい」
イオリが頬を膨らませて不貞腐れたような態度を取っていた。
やはりこの見た目だけなら、可愛い女の子にしか見えない。
その直後、龍に乗った女武士が龍から降り、龍神イオリの前にひざまずいて挨拶をした。
「龍神イオリ様。小生、イオリ様のお力添えをいただきたく此処に馳せ参じました」
「其方は誰じゃ?」
「小生は、『ミクニ・ホンド』が娘、『ミクニ・リョウクウ』と申します。隣にいるのは弟の『ミクニ・リョウド』と申します」
「ほう。その方、ホンド坊の子供達か。確かに若い頃のホンド坊の面影を感じるわい」
「お願い申し上げます、我がミクニは現在、奸臣マデンによって国を乗っ取られようとしております。小生はそれに危機を感じ、弟のリョウドを連れて龍神イオリ様のお力を貸していただくため、此処に参りました」
やはり、リョウクウさんは、私利私欲でクーデターを起こしたわけではなかった。
「マデンめ……ワシのおらんうちに無茶苦茶をしておるな。よかろう……ワシが力を貸してやろう、マデンには大きな貸しもあるでのう」
「イオリ様、マデンとは……魔将軍マデンの事なのでしょうか」
「ほう、ユカ坊。その話えんとらから聞いたと言っておったな。えんとらとは性格が悪そうで乳だけがデカいアヤツの事か?」
その時、イオリの頭の上にいくつかの小石が落ちてきた。
「痛い痛い痛い、コラー、えんとら! どうせ貴様の事だ、盗み聞きしておったな!!」
しかし返事は無かった。
もしこれが大魔女エントラの悪戯だとしたら、彼女は遠く離れたミクニの事すら把握できるほどの力を持っているという事なのだろう。
「まあよい、マデンは古くからのホンド坊の忠臣じゃ。じゃがアヤツの本当の正体は魔の者じゃ。ワシはそれを知っておったのでマデンに呪いをかけられてしまい、力を封じられ、他者にマデンの正体をバラす事が出来なくなってしまったのじゃ」
その呪いをエリアがレザレクションで解呪したというわけか。
「エリア嬢といったのう、ワシの呪いを解いてくれたのはその方じゃったな、心より感謝する」
「はい……イオリ様」
「しかしあのマデンの呪いを解くとは、エリア嬢の力は神にも匹敵するやもしれぬ。ワシは長い間生きておるが、あれ程の魔力の持ち主にあうのは初めてじゃ」
やはり、エリアの力は絶大なものと言えるのだろう。
「ワシの流儀は恩には恩を、仇には仇をじゃ。よかろう、ワシの力をお前達の為に貸してやろう!」
そう言うとイオリは空中に舞い上がり、少女の姿から紫の巨大な龍神の姿に変化した。
「全員乗るがよい。ワシがホンド坊の所に送り届けてやろう」
「イオリ様、小生とランザンは横に追従させていただきます。リョウドを頼みます!」
「よかろう、しっかりワシに付いてくるのじゃぞ!」
私達はリョウドさんと一緒に龍神イオリの巨大な背中に乗せてもらい、龍哭山を下って行った。