217 龍哭山の少女
私達は龍哭山に到着した。
「ここが龍哭山」
「凄い切り立った山ねぇ」
「龍の……鳴き声が聞こえます」
私達の目の前に広がるのは、とても大きな山と深い谷だった。
この険しさは大魔女エントラの城への山道に匹敵するほど、過酷な場所だ。
龍の住処といわれるのも納得である。
ここは空を飛べる龍以外には生きていく事すら厳しいような場所である。
「ユカさん、ここには動物といった動物は見当たりません、しかし遠くでは龍の声らしきものが聞こえます」
「そうなんだね、なんて言ってるかわかる?」
「残念ながら、声が風に混ざってうまく聞き取れないようだ」
「そうなんですね」
「ただ……聞こえたのは、イオリ様が、という言葉だけだ」
私達は龍哭山のふもとに足を踏みいれた。
その時!
「帰れ! ここは人の来る場所ではない!!」
山の奥の方から、直接私の頭に話しかけるような声が聞こえた。
「みんな、声が聞こえなかった?」
「えぇ、何か帰れって言われたわねぇ」
「龍は怒っているらしい」
「……とても怒りに満ちた……声」
どうやら声が聞こえたのは私だけではなかったようだ。
声の感じからすると女性の声のように聞こえた。
しかし、私達は忠告を無視し、山に入ろうとした。
その時、紫色の一陣の風が私達の前に吹いた。
「帰れというのに、ここは龍の賢者、イオリ様の住まう山! 何人たりとも入ってはならぬ!」
「少女……?」
私達の前に現れたのは可愛らしい女の子だった。
彼女は紫の修行着を身に纏っていた。
「キミ、名前は?」
「無礼者! 人に名前を聞く時は己から名乗るが礼儀じゃろうが!!」
「失礼しました、ボクは『ユカ・カーサ』と申します」
「ワシの名前は……アン。龍の賢者イオリ様の弟子じゃ!」
「アンさん。ボク達はこの山に来たというリョウクウという人を探しています」
「リョウクウじゃと……聞かん名じゃな」
どうやらこのアンという女の子は、龍の賢者イオリ様の弟子だそうだ。
「ボク達はリョウクウさんに会わなくてはいけないんです! マデンの企みを阻止するためには彼女に会わないといけないんです!」
「マデンじゃと!? ……その方、ホンド坊の身内の者か?」
「僕達はホンド王の息子、リョウカイさんのためにここに来ました。リョウクウさんはリョウカイさんの妹です」
マデンとホンド王の名前を聞いた途端、アンの物腰が柔らかくなった。
彼女はマデンの事を知っているのだろうか?
「ふむ……どうやらのっぴきならない事情があるようじゃのう。よかろう、イオリ様に会わせてやろう。ついて来るがよい」
「ありがとうございます! アンさん」
アンさんは何かを知っているようだ。
「つべこべ言っておる暇はないぞ! ……マデンめ、ようやく尻尾を出しよったようじゃな」
「何か言いましたか? マデンとか聞こえましたが」
「何も言っておらんわ! ユカ坊、急ぐぞ」
私はユカ坊と呼ばれた。
しかしどう見ても見た目は、私よりもアンの方が子供にしか見えない。
でも彼女が見た目よりも長命な、仙人という可能性もある、
私達はアンの道案内で龍哭山を登った。
◆◆◆
「ランザン、イオリ様はどこにおられる!?」
「クオオオオオオオオン!!」
ランザンは一声吠えると山の頂を目指した。
イオリ様はかつて父上が龍武士の統領だった時に乗っていた飛龍だ。
人語を解し、その紫の色は戦場をかける紫電と恐れられた。
「イオリ様は飛龍の長。ランザン、其方ならその姿を見た事もあろう」
「クオオオオオオン!」
ランザンは一声うなずくと暴風の吹き荒れる谷を低く飛び、その風を切り抜けた。
「リョウド、姉ちゃんにしっかり掴まっていろ! 落ちるなよ」
「はい、姉上」
小生は飛龍の長イオリ様に会う為、龍哭山をランザンに乗り、駆け上った。
「イオリ様、何処におられるのか!」