216 龍の哭く山へ
◆◇◆
「信じられぬ! あのリョウクウが……謀反だと!?」
「はい、リョウクウ様はリョウド様をさらい、飛龍のランザンに乗って龍哭山の方角に飛んで行きました!」
何やら事態がかなり急変しているようだ。
「そうか……父上には、ホンド王にはこの事を伝えるではないぞ! 病が悪化するやもしれぬ」
「承知致しました!」
「リョウクウ……。何故お前が……」
「リョウカイさん……」
「ユカ殿。このような事態に巻き込んでしまい、誠に申し訳ない!」
「ボクはどうでも良いです、それよりもそのリョウクウさんとはどのような方なんですか?」
「リョウクウは義に生きる吾輩の妹だ。短絡的に謀反を起こすような奴ではない」
「では何故……」
「わからぬ、だが吾輩はリョウクウを信じている。後を継ぎたいからと謀反を起こすような事はあるまい……話が出来ればよいのだが」
リョウカイさんの話を聞く限り、リョウクウさんは自らクーデターを起こすような野心家ではなさそうだ。
「リョウカイ様! お伝えしたい事がございます!」
「何用だ!?」
「たった今、太政大臣のマデン様の命に依り、リョウカイ様が逆賊リョウクウ討伐の征討大将軍に任命されました!」
マデンだって!!? それは魔将軍マデンの事か!
「マデン殿が!? 吾輩を征討大将軍に!」
「はい! 逆賊リョウクウは龍哭山に逃亡、其れを追撃し、リョウクウの首を取り、リョウド様を奪還せよとのご命令です!」
「吾輩に……妹を、リョウクウの首を取れというのか」
「リョウカイ様、お気持ちはお察しいたします。ですが、このような事態となってはリョウクウは逆賊、国敵にございます」
「確かに……父上はミクニを統一する前に母上の義兄弟を手にかけたとも聞く、武士としては避けられぬ定めか……」
これが大魔女エントラの言っていた、ミクニへ急げの意味だったのだ。
魔将軍マデンは、ミクニの後継者争いで漁夫の利を得ようとしている。
「リョウカイさん、ここはボク達に任せてください」
「おう。リョウカイよー、オレはあんないい女殺すなんていただけねーと思うぜー」
「あーしもイヤだねぇ。せっかくの兄妹なんだろぉ、仲良く出来ないのかねぇ」
「龍か……俺の言葉が通じればいいのだが」
みんなの心は決まっているようだ。
シートとシーツ、それにエリアもみんなもう出かける心構えはあるようだ。
「ユカ殿、其方達はこの国の客人、このような事態にわざわざ首を突っ込まなくても……」
「リョウカイよー、水くせーじゃねーかよー。オレたちゃダチだろー、ダチのために命をかけなきゃ男がすたるってもんよー」
カイリは笑いながら大槍を構えた。
「なーに、オレはリョウクウちゃんの顔はわかるんだからよー、あんなかわいこちゃん首だけで持って帰ってこいなんてセンスなさすぎるぜー」
カイリは冗談を言いつつも、リョウクウさんを助けてやると言っているのだ。
「カイリ殿、かたじけない!」
「おうよ、リョウカイよー、ここは大船に乗ったつもりでオレ達に任せなー! 悪いようにはしないからよー」
「そうだね、みんな。龍哭山に向かおう!」
「ユカ殿、龍哭山は霧深く、切り立った崖ばかりの場所、飛龍の巣とも言われていて常人が立ち入れる場所ではありませんぞ」
「大丈夫ですよ! ボク達に任せてください!」
「そうだぜー、リョウカイ。せいぜいテメーは軍が無駄に動かないように大将軍として出発するフリでもして時間稼ぎをしておいてくれやー」
目指すは龍哭山。
そしてリョウクウさんとリョウドさんを助け出し、魔将軍マデンの野望を砕くのだ!!
「リョウカイさん、一つお伝えしたい事があります!」
「ユカ殿、一体何ですぞ?」
「マデンの動きに気をつけてください!」
どうやらミクニの人達は、マデンが魔将軍の一人とは知らないようだ。