212 乱世の覇王 ミクニ・ホンド
「わんわだー、もふもふだー」
「オンッ」
シートとシーツは子供達に囲まれていた。
「こっちは真っ白なごはんみたいに白いわんわんおー。可愛いー」
「キャンッキャンッ」
やはり大きくて優しいもふもふした生き物は、子供達に大人気のようだ。
子供達の服装はグランド帝国と全く違う。
しかし、シートやシーツに対する子供達の笑顔は、全く同じものだった。
私は子供が好きだ、あの笑顔に癒される。
そもそも私がゲームクリエイターになろうと考えたのは、子供達にあれスゲー、これカッコいいって言って喜んでもらいたかったからだ。
「みんな、触っても良いんだよ」
「えー本当!」
子供達がシートやシーツに触った。
「触ってもいいけど、叩いたりつねったりしたらダメだからね! 怒ると怖いんだから」
こう言っておかないと、調子に乗った悪ガキがシートやシーツにちょっかいを出してそれを嫌がって弾いただけで致命傷になるからだ。
実際シートやシーツのレベルは30後半ともいえる。
これはかつての銀狼王ロボやブランカと同じくらいのレベルだ。
二匹とも生まれて一年も経たないうちにお化けカズラ、屍肉ゴーレムに巨大骨人形、クリスタルドラゴンに赤い大海獣といった最強レベルのモンスターと戦ってきた。
まだ生まれて数か月で既に、父親や母親のレベルに追いついているわけだ。
そんなレベルの聖狼族が子供を撫でるだけで致命傷になるのは当然ともいえる。
「ありがたや、山神様の姿を見れるとは思いませなんだ……ナムナム」
中にはシートとシーツを神の使いだと思って、拝む老人の姿もあった。
どうやらこのミクニという国は、昔の日本のような万物に神が宿る信仰があるらしい。
似た環境になると文化圏も同じになるのだなと私は感じた。
「ユカさん、そろそろリョウカイさんの屋敷に行かないと」
「そうだね、そうしよう」
私達は小高い山の上に見える立派な屋敷を目指した。
◇
「ユカ様、カイリ様。よくぞ参られました、リョウカイ様がお待ちです」
私達は屋敷の広い部屋に案内された。
ミクニはやはり椅子を使わない文化圏だったようで、畳の部屋に座る形で私達はリョウカイさんを待つことになった。
みんな正座での座り方は初めてだったらしく、足が痺れてくるのは当然だった。
しかし、エリアが微妙なレザレクションよりも効果の弱いヒールを全体に賭けてくれた。
その為、全員がこの座り方でも足の痛みやしびれを感じずに済んだ。
「お待たせして申し訳ない、ユカ殿、カイリ殿。改めて挨拶させていただこう。吾輩がミクニ国王の第一子、『ミクニ・リョウカイ』ですぞ」
「リョウカイ様、改めてよろしくお願い致します」
立派な服に着替えたリョウカイさんは、まさに若武者といわんばかりのいで立ちだった。
「ユカ殿、早速ではございますが、父上にお会いいただきたい。場所の移動をお願いできるかな?」
「はい、わかりました」
私達は屋敷を出発し、屋敷から少し離れたさらに立派な城に到達した。
「吾輩はミクニ・リョウカイである! 父上に会わせたい御仁がいる故、お目通り願いたい!」
「はっ! リョウカイ様御到着ー! ご到着―!」
私達はリョウカイさんを先頭に城の奥に案内された。
そこは重要歴史建造物に出てきそうな程立派な和風の城だった。
その城の奥の方に通された私達は豪奢なふすまの前で立ち止まった。
「父上はこの奥におられます。しかし今は病の身。床に就いたままの謁見で失礼致します」
どうやらリョウカイさんの父親は今寝たきりらしい。
「我が父、『ミクニ・ホンド』は今でこそ床に就いておりますが、若き頃は麻の様に乱れたこのヒモトの国の乱世を統治したお方、失礼なきよう願いますぞ」
リョウカイさんが大きな声でふすまの向こうに語りかけた。
「父上! このリョウカイ、父上に会わせたい御仁がいる故、ここに馳せ参じました! お目通りを願いたい!」
「……入れ」
ふすまの奥からはとても威厳のある声が聞こえてきた。