208 紅の大海獣
まさか! カイリの言っていた赤い霧が、アトランティス号の周りを囲んでいた。
「クソーッ! まさかアイツに出くわすなんてなー!!」
カイリが大槍を構えた。
「おのれ妖! この名刀海神の錆にしてくれようぞ!」
リョウカイさんも刀を抜いて応戦準備は出来ている。
私も遺跡の剣を引き抜いた。
「グルルル、ガアアアァァ!」
シートとシーツも戦う準備は出来ている。
私達は全員で、赤い霧のモンスターと戦う準備を整えた。
「ユカ、本気で戦おうとするなよー、どうにか一か所でも抜け道を作れ。そうすれば俺のスキルで一気に切り抜ける!」
「わかった。みんな、無理はしないでくれ」
海賊と船乗り達は船の中に避難してもらった。
どう考えてもモンスターはレベル60以上、下手するとモービーディック、ケートス以上のモンスターだ。
あまり言いたくないが、このレベルだとマイルさん、フロアさんもスキル的には役に立てなさそうだ。
ここはとにかく早く、この海の怪物のいる海域から切り抜けないと!
赤い霧の中から不気味な唸り声が聞こえてきた。
それは船の下から聞こえてくる。
「下だー!!」
カイリがスキルで船を一瞬で動かした。
その直後、先程船の有った場所から海を突き破り、巨大な真っ赤な大海獣が長い首を出してきた。
ザバアアアアン!
大海獣の巻き起こした大波が船を襲おうとした。
「波よ、消えろぉー!!」
カイリのスキル、潮流自在は大海獣の作った大波を一瞬で消し去った。
このスキルが無ければ、この大波で船は海の藻屑と化していただろう。
安心する暇もなく、怪物は長い大首を船に叩きつけてきた。
私はその首を遺跡の剣でぶった斬った!
断ち切られた大海獣の首は海に落ちた。
だが、カイリからはこの怪物は一匹だけではないと聞いた。
船の反対側から別の怪物が大首を出した。
大首はその長さを利用し、マストに絡みつこうとした。
「ガアアアアー!」
聖狼族のシートがその長首に噛みついた。
牙が生えたシートはもう立派な戦士だ。
その鋭い牙はレベル60超えの大海獣の頭部を容易く噛み砕いた。
頭部を失った大海獣はそれでも動き続ける。
コイツは不死身なのか!?
悪夢というべきか……頭部を失った大海獣は、再びその頭部を復活させた。
そして更に最悪な事に、大首の大海獣は何匹もがその姿を海の上に現した。
「ダメだー、コイツには勝てねー。どうにか一か所でも切り崩せねーと……」
絶望が私達に感染していく。
その空気を斬り裂いたのは……大きな咆哮だった!
「クオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォン!」
それはホセフィーナの鳴き声だった。
ホセフィーナは大海獣に向かい、その巨体で体当たりを仕掛け、その首を何匹も噛み砕いた。
「クルルルルゥゥゥゥウウウウウオオオオオン」
「何だって……!」
フロアさんがホセフィーナの言葉を聞いたらしい。
「フロアさん、何ですって?」
「……ここは私がくい止めます。皆さん、坊やに再び会わせてくれてありがとうございました。ハーマンを……頼みます。……だとさ」
「ホセフィーナァーー!!」
ホセフィーナは振り返る事なく、大海獣に向かっていった。
「……みんな、一気にここを抜けるぞー!」
ハーマンはマイルさんが茨の呪縛で海から引き揚げ、船の上に乗せられた。
「潮流よー! オレ達の船を最大船速でこの海域から離脱させろー!!!」
カイリの潮流自在スキルが発動し、アトランティス号は赤い霧を突き抜けて魔の海域を切り抜けた。
そして、その遥か後方では……ホセフィーナの鳴き声が聞こえた後、彼女と大海獣は共に海深くに沈んでいった。
「ホセフィーナァァー。ハーマンは絶対オレが守ってやる! 安心しろー!!」
海にカイリの大声が轟いた。
だが、その大声が大海原にかき消される程、目の前の海は広かった。