206 カイリとポート
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赤い悪魔から逃げたオレ達は、逃げた先でバラバラに壊れた船を見つけた。
その船は元がとても良い船だったのは、オレが見て間違いなかった。
普通の嵐ではビクともしないくらいの造りの船。
頑丈さでは軍船にも勝るオレのアトランティス号が最高だが、このバラバラになった船は普通の航海や運搬ではまず壊れるようなものではなかった。
だが、その船がバラバラに壊れていた。
どう考えてもこれは大嵐に巻き込まれたか、先程の海の怪物に襲われたと考えた方がいいだろう。
「おい、テメーら! 生きている奴がいるかどうか調べるぞ!」
「がってんです! お頭!」
「アイアイサー!!」
オレの手下たちは小舟を出して辺りの生存者を探しに出た。
オレもスキルで波を消して船を留めた状態にして、周りの様子を確かめに小舟に乗りこんだ。
「オイ! 誰か生きてるやつはいるかー!!」
だが、返事はなかった。
積み荷は全て海の底、上に浮かんでいたのは砕かれた船の残骸だけだった。
オレはスキルを使い、辺りの波を俺中心に集めるようにしてみた。
その中でようやく、生存者らしいものを見つける事が出来た。
だが、意識がない。
オレは部下に命じてどうにか助かりそうな二人を、アトランティス号に乗せ換えた。
◆
「うう……、フロート」
「……」
男はうわごとの様にフロートと言っていた。
「オイ、アンタ! しっかりしろ!」
「ウグ……ゲホッ、ゲホッ」
体が完全に冷えている、これは悪いパターンだ!
「オイ、テメーら。すぐにお湯を沸かせー! それと毛布をありったけ持ってこい!!」
「お頭! 了解です!」
魔法の使える奴がお湯を沸かし、船の鉄板の上で焚火を焚いた。
そしてオレ達は男と意識の無かった獣人の女を介抱した。
「ううう……はっ、ここは!?」
「気が付いたか、ここはオレの船の上だ」
「貴方は……?」
「オレはカイリ、大海賊のカイリ様だー」
「!! 商人殺しのカイリ! 私を人質にしようというのか!?」
どうも商人の間ではオレは悪名が轟いているようだ。
だがコイツは立ち上がる事も出来ない程弱っていた。
その為、コイツは寝転がったまま、動けず口だけでオレと会話を始めた。
「そんなつもりはねーよ、アンタはそこの女と海に浮かんでいたんだ。そういうヤツを助けないのは海の男とはいえねーよ、たとえそれが悪人だとしてもなー!」
「……感謝……する。それより! フロートは!?」
フロート、どうやらそれがこの獣人の女の名前のようだ。
「残念だがまだ意識は戻らねー、望みは薄いかもな」
「そうですか……」
オレはこの男から事情を聞こうと思った。
「アンタ、一体なぜあんな所にいたんだー?」
「私は……商人の……ポート・ディスタンスです。私達は船でミクニに行く途中で……赤い怪物に……」
!! 赤い怪物、間違いなくオレ達が遭遇したあの何匹もの悪魔だ。
「そうか……残念だが生き残ったのはアンタ達だけだ。他は……」
「そうでしたか……私と妻を助けていただき、ありがとうございます……グㇵッ」
「オイ! アンタ大丈夫かー!?」
意識は取り戻したとはいえ、商人のポートは体が弱っていた。
このままでは助からない。
「助けていただいたお礼に……こちらを差し上げ……ます」
そういうとポートは懐から∞の形のリングを取り出した。
「これ……は我が家に代々……伝わる物、これを貴方に……」
「ああ、ありがたくいただくぜー」
そして手にしたリングを見てオレは驚いた!!
これは……エイハブのオヤジが海で俺を拾った時……オレが唯一持っていたってリングと同じ物だ!
「……まさか! アンタ、オレのオヤジ! オヤジなのかー!!!」
「……」
だが、オヤジはもう冷たくなり、返事はなかった……。
オレはオヤジの形見になったリングを、グッと力強く握りしめた。