203 おれたちの船出
「よがっだじゃでぇえがーーー!」
「いい年した大人が泣くなよぉ、みっともないなぁ……」
「ぞんなごどいっだっでよおぉぉおおー、ようやぐがあちゃんにあえだんだぜー」
カイリはさっきから泣きっぱなしだ。
それを眺めているマイルさんが苦笑いしつつも嬉しそうだった。
私は良い仲間達に恵まれたのかもしれない。
他人の為に共に笑い、他人の為に共に泣ける、そんな人達は素晴らしい。
カイリもマイルさんもフロアさんもエリアも今ここにいないホームやルーム、そしてシートとシーツの二匹、全員が他者の為に笑い、そして泣ける良い仲間だ。
「吾輩……こういうのに弱いのですぞ。御母堂に巡り合えて、本当に良かった! 良かった!!」
ここにも他者の為に泣ける人がいた。
そういう私も目頭が熱くなっていた。
「お頭ー、これでようやく船が出せますね!」
「うるぜーぞ、でめぇら、空気読めごのやろー!」
カイリの泣きはまだ当分続きそうだ、でも親子が再会できたってのはやはり良いものだ。
「ピイイイピイピイ」
「クルルルルゥゥゥウ」
ホセフィーナとハーマンの親子が、嬉しそうにグルグルと連れなって泳いでいた。
楽しそうなのは分かるがこちらに波が押し寄せている。
「ハーマン、嬉しいのは分かるけどよー、せめて波くらいは立てず大人しくしてくれー」
カイリは大槍を突き立て、潮流自在のスキルで大波を静かに変えた。
「ククウウウウウウウー」
「ふんふん、そうか、そうなんだな」
フロアさんが何かを聞き取ったようだ。
「みんな、どうやらこのホセフィーナはお礼を言いたいようだ、坊やに再び会わせてくれてありがとうございます。だとさ」
「そうなんだね、ホセフィーナもハーマンに会えて良かったね」
「クオオオン、オオオオオオオン」
「ハーマン、坊やに立派な名前を付けてくれてありがとうございます、このお礼は必ずさせていただきます。だとさ」
ホセフィーナとハーマンは仲良さそうに横に並んで私達の船の前に止まっていた。
「さて、それじゃーミクニに向けて出発しますかー……と言いたいところなんだがー、準備が全くできていない!」
海賊と船乗りたちが盛大にずっこけた。
「お頭―! くだらない冗談言ってたら、簀巻きにして海に叩き込みますよ!」
「冗談、冗談だってー、でもモービーディックとの闘いが今回のメインだったわけだろー、出てきたのが近海なので……そんなミクニまでの遠距離航海の準備するわけねーだろ」
まあそれもそうである、そういうわけで私達は一度港に戻った。
「船の準備もしなくてはいけないがー、折れたマストも修理しないとなー」
船大工たちがどうにかマストを直そうと足場を組みだした。
「足場はいりませんよ、僕に任せてください!」
「ユカさん、でも、どうやってマストの木と鉄を直すつもりなんだ?」
「船の両端の地面をなだらかな坂にチェンジ!」
「これは! 凄い能力だ」
私がマップチェンジしたのは造船ドックの横の船を左右から囲んでいる突堤の部分だった。
「さあ、後はこの坂の所に大きな鉄板を用意できれば、橋げたになります」
「凄いぜ、これなら足場必要ないから、今日中にでもマスト修理が出来るぞ!」
船大工達はやる気を見せて、折れたマストを一日で完全に修理してくれた。
そして次の日。
食料や航海の準備を進めた私達は、ミクニの国に向かい出発する事にした。
「よーし、野郎どもー! 海の男の力、見せてやれー!」
「「「「オーーー!!!」」」」
海賊や船乗り達はやる気十分である。
そして完全に準備の整ったアトランティス号は大きな帆を広げ、海原へと出港した。
「ピイイイイイイ!!」
そんなアトランティス号に追従する白い大きな影と小さな影があった。
ホセフィーナとハーマンの親子である。
「なんだ、おめーらも付き合ってくれるのか!」
「「ピイイイイーー!!」」
親子はうなずくように同時に鳴いた
「よおおおーーーし! 野郎どもー! おれたちの船出だーーー!」