202 ハーマンとホセフィーナ
◆◆◆
ハーマンは泳いだ、懐かしい臭いがもうすぐそばに居る。
だが、その目に入ってきたのは優しいお母さんとはかけ離れた真っ黒な怪物だった。
真っ黒な怪物はハーマンの親友と戦っていた。
あの白い船、あそこにいるのはカイリ、ハーマンの親友である。
カイリ達は真っ黒な怪物と死闘を繰り広げていた。
ハーマンは哭いた、母親の臭いと親友が闘っているのだ。
彼はこの状況でどうする事も出来ない、ただ泳いで二つの間に入って戦いを止めようとしただけだった。
それは彼の中の小さな勇気が起こさせた行動だった。
◆◇◆
「リョウカイ、待ってくれー、あそこにハーマンがいるんだ!」
カイリが指さした先には白い子鯨の姿があった。
子鯨はケートスに近寄った。
そしてその体に触れようとした時、ケートスはヒレで子鯨を弾き飛ばした。
「ピイイイイーー!!」
弾き飛ばされた子鯨をキャッチしたのは聖狼族のシートだった。
子鯨にその後カイリが話しかけた。
「ハーマン! どうしたんだ!!」
「ピエエエエェ」
ハーマンは哭いている、その声はとても悲しく聞こえた。
「何という事だ、その子はあの白鯨の子供だ!」
「フロアさん、それは!?」
「モッサール族のオレは動物の言葉が分かる。それは海の動物も同じだ。さっきあの大鯨から聞こえたのは坊やと呼ぶ声だった……そして、そこの子鯨が叫んでいたのは、お母さん。つまりこの二匹は親子というわけだ」
なんという事だ、もしモービーディックを大人しくできていればこの親子は悲しい再会をせずに済んだはずだった。
しかし……また現れたあの薄闇色のフードの男がモービーディックをケートスにしてしまった。
「ユカ……私を守ってください!」
エリアが強い決意を私に見せた。
彼女はレザレクションでケートスを浄化しようというのだ。
「わかった! キミはボクが守るっ」
私は遺跡の剣を握り、ケートスの猛攻を防いだ。
「ユカ、何故アイツと戦わないんだー? 防戦一方じゃねーか?」
「みんな、お願いだ、アイツからエリアを守ってくれ!」
私は全員にエリアを守るように頼んだ。
「事情が何かは存じぬが、その御身をお守りすればよろしいのですな!」
リョウカイさんも事情を汲んでエリアを守ってくれた。
「……海に満ちたる聖なる力よ……目の前の邪悪なる意志に取り込まれし暴れる者を沈めたまえ……レザレクション!!」
エリアのレザレクションの光が、ケートスの巨体を包み込んだ。
光に包まれたケートスの動きが止まった。
そして、ケートスの漆黒の身体から黒い霧のような物が鼻の孔から抜け出していく。
「ハァ……ハア……」
エリアの力がどんどん失われていく、それほどこの邪悪な魔素の量が多いのだろう。
今はみんなエリアを守るだけで、エネルギーを分け与える事が出来ない。
レザレクションは彼女に大きな負担を与えるスキルなのだ。
「ピュイイ」
そんなエリアに這いつくばりながら移動したハーマンが触れた。
そして……彼の母親を思う気持ちが、強いエネルギーとしてエリアに注がれた。
「この力は……! 浄化の光よ。目の前の者を救いたまえ!」
「グオオオオオオオオオンン!!」
大鯨が真っ白な光に包まれた、そして……沈黙が訪れた。
そして、光が晴れた時……そこにいたのは、魔素を浄化された大きな真っ白い鯨、ホセフィーナだった。
「ッピイイイイーー―!!」
ハーマンは海に飛び込み、まっしぐらに白鯨に向かい泳いだ。
「クルルウルーーー!!」
そして、ホセフィーナはそんなハーマンをヒレで優しく包み込んだ。
「うううーー、泣かせるじゃねーかよー、よがっだなぁぁーーー!!!」
この光景を見て、なんとカイリは涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしていた。
私も目頭が熱くなっていた。
他のみんなも、笑顔の中に涙を見せるのが何人もいた。
「よかった……お母さんに会えたんだね」
エリアが優しい顔でニッコリと白鯨の親子の再会を微笑んで見ていた。