201 子鯨のハーマン
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その子鯨は泳いだ。
彼は荒れ狂う海の中、一匹で海を泳いでいた。
懐かしい臭いを遠くのほうに感じたのだ・
荒れ狂う嵐の夜、捕鯨船に襲われそうになった彼は優しいお母さんにかばってもらって助かった。
しかし、傷だらけになったお母さんは海の底深くに沈んでいった。
ハーマンは広い海で一人ぼっちになってしまった。
それでも彼はお母さんを探した、しかしどこを探してもお母さんは見つからない。
力尽きて海の上に浮かび動けなかった時、白い大きな船から魚が投げ入れられた。
「よー、腹、減ってんだろ。それを食いなー」
人間、それは彼にとってお母さんと自分をいじめる嫌なやつらだった。
だが魚をくれた人間は弱っている彼をいじめようとしない。
ハーマンは投げ入れられた魚を食べた。
「よーし、いい食いっぷりだ! もっとやるよー」
彼の名は大海賊カイリ、弱った者を見過ごせない男だった。
「よう、お前に名前を付けてやろう……そうだな、おめーは伝説の海の男の名がいいな、そうだ! ハーマンだ!」
ハーマンと名付けられた子鯨はカイリと共にいくつもの海を旅した。
ある時は彼を助け、またある時は彼に助けられ、ハーマンとカイリには種を超えた熱い友情が育まれた。
だが、どれだけ海を探してもハーマンは優しいお母さんを見つける事が出来なかった。
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しかし今ハーマンは確かに感じていた、懐かしいお母さんの臭いを。
そしてその臭いのする方角を目指し、彼は力いっぱい泳いでいた。
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「エリアの笛の音は暴れ狂っていたモービーディックを大人しくさせた」
「グ……ウウウウウウウウゥゥゥ……」
これで誰もがモービーディックが暴れる事はないだろうと思ったその時!
「困るんだよねェ! せっかくマデンの為にミクニに行く船を出せなくしておいたのにさァ!!」
薄闇色のフードの男がモービーディックの背中に突如出現した!
「さァ、人間への憎しみ、その力を受け取りなア!」
薄闇色のフードの男は黒い光の塊をモービーディックの鼻の孔から叩き込んだ。
「GAAAAAAAAAA!!!」
大人しくなったはずのモービーディックは再び荒れ狂い、生け簀になっていた岩山すらその巨体で砕いた。
その身体は真っ白な巨体から魔素に侵された真っ黒な姿になり、幾つもの目が現れたバケモノ、大鯨の怪物、ケートスの姿になった。
「ハハハハハハァ! 今度こそ海の藻屑になりなァ!!」
そう言うと数闇色のフードの男はまた姿を消した。
大鯨の怪物ケートス、その力はモービーディックだった時を上回り、尾撃で船のマストを一本へし折った。
「GAAAAAAAAA!」
ケートスが咆哮を上げた、その凄まじい波動は壺を壊し、樽をもバラバラにしてしまった。
「なんという桁外れの力だ!」
「ユカ、ここはオレに任せろー、本当はやりたくなかったがもうアレは助からないからなー!!」
カイリが大槍を高く掲げた。
「この豪槍ポチョムキンの力ー、あまり使いたくはなかったんだがなー!!」
カイリが大きく槍を振りまわし、マストの上部に跳躍した。
「さあ、くらいなー! 海王ー波濤斬ーーー!」
大波と稲妻をまとった伝説の大槍がケートスの巨体を斬り裂いた。
「GAAAAAAAAAAAOOOOO!!!」
ケートスが暴れる、このままでは船が沈没する!
「船の周りの海を全部陸にチェンジ!!」
私のマップチェンジスキル、これで船は丘に登った状態になった。
「ユカ殿、かたじけない。ここは吾輩が! 見よ、名刀海神の奥義! 迅雷旋回斬!」
リョウカイさんは刀を持ち自らの身体を回転させながらケートスの巨体を何度も縦横無尽に斬り付けた。
ケートスの全身から血が噴き出す、ケートスは大ダメージを受けかなり弱っていた。
「これで……トドメでですぞぉ!!」
「リョウカイ! 待ってくれー!!」
カイリがリョウカイの攻撃を止めさせた、何故なら……カイリの目には、必死に泳ぎケートスの体に寄って行こうとする小さなハーマンの姿が見えたのだ。