200 聞け、笛の音を
モービーディックは大きく吠えた、その空気の振動は船全体を揺らした。
「みんな、気をつけるんだ!」
モービーディックの巨体はアトランティス号にも匹敵する程だった。
「くそっ、あの巨体で船に当たられたらかなりヤバいぜー!」
モービーディックが巨体を震わせた。
その巨体が巻き起こした波が船を襲う。
「波なんて消えちまいなー!」
カイリが大槍を振るうと大波が姿を消した。
凄いスキルだ、私が陸の地形を自在にできるとするならカイリは海の流れを自在に操れるというらしい。
「グオオオオオオオオン!」
モービーディックが大きく吠えた。
そして海水を飲み込み、上部の鼻から激しく潮を吹いた。
潮は霧になり、モービーディックの姿を見えにくくした。
「ガオオオオー!」
海から姿を見せた瞬間、シートが鋭く爪で切りつけた。
ゾルマニウムの爪はモービーディックの巨体にはじめての傷をつけた。
だが、その後強烈な尾撃がシートを襲った。
「ギャインッ!」
尾に弾き飛ばされたシートはマストにぶつかりそうになった瞬間、体を回転させてマストを蹴った。
マストには激しい振動が響いたが、流石は大海賊カイリの船である、マストは折れるどころか傷一つ付いていなかった。
シートはモービーディック目掛け、そのまま前に回転しながら飛び掛かった。
これは彼の父、銀狼王ロボの必殺技、『天狼転牙』だ、彼は誰に習うでもなくこの技を使おうとしていた。
ズザシュッ!!
シートの回転攻撃はモービーディックの側面に大きな傷を与えた。
そしてバランスを崩して船にぶつかりそうになったシートを妹のシーツがその体で受け止めた。
「グオオオオオオオンンッ!!」
モービーディックが吠えた、その側面に出来た大傷から血がどんどん流れ出る。
そしてモービーディックは船の下に潜りこみ、船を一気に持ち上げようとした。
「ぐあぁあっ!」
船員の一人が船から落下しそうになり、モービーディックの大きな牙に食われそうになった。
「茨の呪縛!」
間一髪、マイルさんは伸ばした蔓で船員を絡め、そのまま引っ張り上げた。
茨の蔓をそのまま握った彼女は手から血を流していた。
「この程度、傷のうちに入らないからねぇ」
「マイルさん、ありがとうございます」
フロアさんは指笛で大カモメを呼び、上空からモービーディックの居場所を確認していた。
「ユカさん、こいつ、結構大幅に動いている、これを止めないと」
それなら私は私のできる事をするだけだ。
「モービーディックの周りの海を岩山にチェンジ!!」
「!!?? これがユカの能力なのかー! すげーぜっ」
私の作った岩山は生け簀のようにモービーディックの周囲数十メートルを大きく輪を描くように囲み込んだ。
「なら次はオレの番だなー! 大渦よ、出ろー!」
カイリのスキルでモービーディックを包み込むように二つの渦がその巨体の左右に作られた。
二つの渦の潮流に動きを止められたモービーディックはその巨体を船に正面からぶつかろうと突っ込んできた。
「ここは吾輩がくい止める! 名刀海神の切れ味を見せてやろうぞ!」
リョウカイさんが突っ込んできたモービーディックに素早く剣を振るった。
その剣閃はモービーディックの牙を砕き、船に突っ込んで来ようとしていたモービーディックはその動きを止め、海に潜った。
「よし、弱ってきたな」
「ユカさん……僅かながら俺にはモービーディックの心の声が聞こえた、坊や、坊や、彼女はそう言っている」
「それって……」
「ユカ……あの鯨泣いてる……私が助けてあげないと」
そういうとエリアは危険な船の先端に立ち、村長の笛を奏でだした。
澄んだが何か物悲しい笛の音が辺りに響き渡る、そしてその笛を聞いたモービーディックはその動きを止めた。
そこに一匹の子鯨が遠方から泳いできた。
彼の名前は『ハーマン』カイリの親友だ。
ハーマンはモービーディックの傍に泳いでいった。