197 ミクニから来た男
大魔女エントラの城を出た私達はホーム、ルームの二人と別れ、再び自由都市にワープ床で戻った。
そして酒場についた私達を待っていたのは毎度のように酒を飲んでいた大海賊カイリだった。
「よー、戻ってきたみたいだなー。でも早かったな、オレはもう少し時間かかると思ってたぜー」
カイリの態度は相変わらずである。
だが、私はカイリの前に別の人物がいる事に気が付いた。
「カイリさん、そちらの方は?」
「あー、コイツか。コイツはオレの親友よー」
カイリが親友といった人物は、日本の戦国時代か室町後半のような鎧姿のいで立ちだった。
この人がミクニというこの世界の和風イメージの国から来た人物なのだろう。
「初にお目にかかります。吾輩はリョウカイと申すものにございます」
なんだかずいぶんと古風なサムライといった感じの人物である。
カイリとは一体どういう関係なのだろうか?
「ボクはユカ・カーサです。よろしくお願いします」
「おお、其方が盗賊退治のユカ殿でございましたか、お目にかかれて光栄ですぞ!」
リョウカイさんは私の事を知っていたらしい。
まあカイリさんが私達のいない間に何らかの説明をしたのだろう。
「それで、リョウカイさんはカイリさんとどういうご関係ですか?」
「なーに、コイツとは死ぬ寸前まで殺しあった仲よ!」
「そう、吾輩とカイリ殿は以前敵同士でござった」
は? 殺しあった者同士がなんでこんなに仲良さそうに酒を飲んでいるんだ??
まさか昔の漫画によくあった『タイマン張ったらダチ』ってやつなのか!?
「こ奴は我が国ミクニの近辺に現れては商人を皆殺しにする悪鬼羅刹のような海賊と聞いてな、民の為にそのような悪党は成敗せんと、吾輩が我が海軍の船でこ奴の船に殴りこんだのだ」
「そうそう、そんな事もあったなー」
「それで商人を殺そうとしていたこ奴を止めようとしたのが吾輩なのだ。だが、こ奴と戦っているうちに心底の腐れ外道ではないと感じてな、訪ねてみたのですぞ」
「あの時はいきなり戦闘中に話しかけてくるからビックリしたぜー」
飄々と話しているがこの二人はとんでもない実力者だという事は話から伝わってくる。
「それでこ奴に何故商人を襲うのかを吾輩が訪ねてみたところ、こ奴は奴隷商人を皆殺しにして、奴隷にされた民を助けていた事が分かったのですぞ」
「まあオレは弱者からは奪わねーからな、オレが奪うのは人道に外れた腐れ商人だけだぜー!」
「その義侠心に心を打たれた吾輩はこ奴の罪を免罪とし、我が国の食客として招いたわけですぞ!」
「そうそう、それからの縁なんだよなー」
この話からするに、このリョウカイという人物はミクニの中でもかなり上の立場の方の人物だという事がわかる。
「ユカ殿、お願い申し上げますぞ」
「はい、いったいどのような事でしょうか?」
「吾輩、ミクニからこの国に貿易で来たのだが、あの白鯨めのせいで国に戻れぬ次第でございます。何卒あの白鯨めを討伐してミクニまで帰れるようにしていただきたい」
「という事なんだわー、オレがオマエさん達を探していたのはリョウカイの頼みだったんでなー」
私達は丁度、大魔女エントラ様からモービーディックを大人しくする方法を聞いてきた後だ。
「わかりました、お引き受けします!」
「かたじけない、この恩はミクニについたら必ず返させていただきますぞ」
さて、情報屋の一面も持っているカイリなら旧バレーナ村の村長さんの事も知っているだろう。
「カイリさん、お願いがあります」
「おう、なんだー?」
「この辺りは昔バレーナ村と呼ばれていたそうです、その時の村長さんを捜してもらえますか?」
「おう、分かった……と言いたいとこだがー、オマエさんもう会ってるぜー」
「え? それはどういう事ですか?」
「オマエさんが助けた奴隷にされた人達の中に爺さんがいただろー」
あの老人が旧バレーナ村の村長だったのか!




