195 魔力と体力の限界
ルームは本人は自覚していないが今や凄腕の魔法使いだ。
盗賊ボスのアジトやお化けカズラ、屍肉ゴーレムに巨大骨人形にクリスタルドラゴン、あれだけの死闘を潜り抜けてきたルームはその辺りの冒険者ギルドのA級冒険者を軽く上回るレベルになっている。
そのルームの中の血に封印があったとは。
ひょっとすると母さんも封印を解くと凄まじい魔力が使えるのかもしれないが、想像したくない。
「私の血の本当の力……」
「そう、魔法王『テラス・ペントハウス』の残した最強の魔力、ルームちゃんにはその魔力があるからねェ」
ルームは大魔女エントラの指示で城の突き出た崖の上に立っていた。
「大丈夫、思い切りやっちゃって良いからねェ。アンタの本当の力を出してみてねェ」
大魔女エントラはこの城全体にアブソリュートレインボーフィールドを形成した。
ルームの魔法はそれほど強力になったという事か。
「では……まずは初級魔法のファイヤーボールから……ファイヤーボール!」
ルームの放ったファイヤーボールは数十メートルのサイズになり、はるか遠くの岩山に直撃した。
「ウソ……あれが私の魔法……?」
「ルームちゃんの力はあんなものじゃないからねェ、もっとやってみてねェ」
「では……次は雷の魔法で……サンダーボルト!」
ルームの魔法で天空高くから落ちた稲妻は遠くの岩山を砕いた。
「これ……サンダーブレークよりも強い……ですわ」
「それが本来のルームちゃんの魔力だからねェ。魔法王の魔力はそんなもんじゃないからねェ」
大魔女エントラはワインを飲みながらルームの様子を見ていた。
この人は普段甘いものを食べるか酒を飲むしかしていないのか?
「では……本気を出します、イラプシオォォォン・コルムゥゥゥナ!」
ルームの最強魔法、『イラプシオンコルムナ』が発動した。
その火山の噴火にも等しい火柱は数百メートルに達し、周囲の雪山の雪を全て蒸発させ、岩山すらを溶かしていた。
「やるじゃない、でもまだ上があるからねェ。今なら使えるはずだねェ」
「まさか……究極魔法、ボルガニックフレア!」
「そう、今のルームちゃんなら耐えられるからねぇ、封印を解かずにボルガニックフレアなんて使ったらアンタの身体の方が壊れちゃうからねェ」
大魔女エントラは意地悪でルームに究極魔法を教えなかったのではなかった。
究極魔法は術者本人すら耐えられないほどの負荷がかかるという事か。
「いきます……ボルガニィィィィック……フレァアアアア!!!」
ルームの魔獣使いの杖が粉々に砕けた。
あまりの膨大な魔力量にS級装備の杖ですら耐えられなかったのだ。
だが、杖が砕ける前に発動した数百メートル級の大火球は活火山の噴火にも等しい大爆発を起こし、辺りの山を全て吹き飛ばした。
その威力を例えるとすれば……下手すれば古い映像で見た原子爆弾クラスだ!
「ハァ……ハァ……、凄い……これが、わたく……しの魔……ほう」
力を使い果たしたルームはその場に倒れこんでしまった。
「ダメみたいだねェ、杖の方が持たなかった。この力を使いこなすにはまだまだ修業が必要だねェ」
「……」
ルームは返事をする気力を失っていた。
「エリアちゃん、レザレクションをお願いするねェ」
「はい、万物に宿るエネルギーよ、我らを癒したまえ……レザレクション!」
エリアのレザレクションのおかげでルームはどうにかしゃべれるくらいに回復した。
「私、まだまだですわ……こんな体では魔法を使えても……」
ルームが泣いていた、悔し涙だろう。
技術は手に入れても肝心の気力や体力が持たない、私も昔ゲーム制作でぶち当たった壁だ。
「ルームちゃん、アンタここに残ったらどうかねェ?」
「でも……私はユカ様達と……海に」
「ダーメ、アンタ、その体力で制御できない魔法を使うと死んじゃうからねェ」
大魔女エントラの言う事はもっともである。
ここでレベル30クラスのA級の魔法使いが抜けるというのは戦力的に致命的なマイナスだが、この選択は仕方が無い。
ルームはこの城に残り、大魔女エントラの修業を受ける事を選んだ。