194 覚醒した魔法王の血
大魔女エントラはシロップたっぷりの紅茶を飲んでいた。
この人はどれだけの甘党なんだ!?
この世界では砂糖は貴重品である。
それを惜しげもなく使う彼女は相当金も実力もあるという事だろう。
「とりあえず、今のところ話をまとめると、モービーディックを大人しくする方法と、南方の国境警備隊の件は片付いたわけだねェ」
大魔女エントラの見せてくれていた南方の様子はまだ映像が続いていた。
父さん達を包んでいた虹色の膜は姿を消していた。
「流石にあの魔法は長時間は使えないからねェ。メテオフォールが終わったら消しといたからねェ」
究極防御魔法の最大の弱点は膨大な魔力量消費と持続時間の短さというわけだ。
「まあこれで当分は時間稼ぎが出来るはずだねェ。魔将軍が来るまでにアンタ達が船でつけるようにすればいいからねェ」
「エントラ様が先ほど言っていた魔将軍ですか」
ホームが魔将軍について尋ねた。
「まあそうだねェ。マデンはミクニの国にいるから動けないとして、残りの三人の魔将軍の誰かが来るだろうねェ」
「魔将軍、一体どれ程の強さなのですか?」
大魔女エントラはシロップたっぷりの紅茶を飲みながら話した。
「最低でレベル70、今のアンタ達じゃユカですら苦戦するだろうねェ」
絶望的な数字が降ってきた。
そんな相手、どうやったら勝てるというのだ。
「まあ妾を信じる事だねェ。言うとおりにすれば勝てるようになるからねェ」
そう言うと大魔女エントラはまた甘そうなパンを食べだした。
「世界一の大魔女エントラ様! 私に究極魔法を教えてくださいませ!」
「だーめ」
「! 何故でしょうか!?」
「ユカ、砂糖三袋目の願いはこの子の事で良いかねェ?」
ルームは究極魔法の事で拒否されて涙目になっていた。
まあ三つ目の願いはルームの強化で良いかな。
「はい、お願いします」
エントラは舌なめずりをしてから立ち上がった。
「ルームちゃん、だったかねェ。こっちへおいで」
「はい」
ルームは大魔女エントラの言うがままに近づいた。
その時! いきなりエントラはルームの背中に手を回し、彼女の口にキスをした。
「!!!!」
みんながビックリしている、あまりの想定外の行動だったからだ。
「!! な……何をするのですのぉぉー!!! いくら尊敬するエントラ様でも乙女のファーストキスを奪うなんて許せませんわぁぁぁぁ!」
大激怒したルームが自身の持つ魔力を全て注ぎ込んだ普段より最大級の魔力でイラプシオンコルムナの魔法を発動しようとしていた
「まあまあ落ち着きなさいってェ。話せばわかるってェ」
そう言うとエントラは杖を構え、エナジードレインの魔法でイラプシオンコルムナを全部吸い取ってしまった。
「ひ……酷いですわぁあああ」
挙句には魔力を吸い取られたルームが号泣する始末だ。
大魔女エントラは一体何を考えていたのか?
「ルームちゃん。さっきのイラプシオンコルムナ、普段以上の魔力が集まったと思わないかねェ?」
「ふぇっ……?」
確かに私が見ても先程のイラプシオンコルムナは普段以上にエネルギーがデカかったように見える。
「あれはキスではないからねェ。テラスの一族の力を最大限に引き出すきっかけのおまじない」
「!? それってどういう事でございますか……?」
「テラスはねェ、あまりにも強大な魔力を持ちすぎて魔王を倒した後その自らの魔力を封じていたのよ。人々に怖れられない為にねェ」
「それって……」
「そして言っていた、いつの日か私の子孫がその力が必要と願った時、その血の封印を解いてほしいってねェ」
そういう事だったのか。
つまり大魔女エントラはテラスとの遥か昔の約束を果たし、魔法王『テラス・ペントハウス』の一族の封印を解いたというわけだ。
「ルームちゃん、貴女の血の本当の力、今こそ見せてみるんだねェ」