193 魔将軍四天王
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此処は何処にあるかわからない城の中である。
その城の中で豪華でおぞましい椅子に座っていた男は酒を飲んでいた。
男は見た目は若そうな美形である、だが、彼の周りに漂う空気は歴戦の戦士ですら近寄れない程威圧感があった。
「ほう、メテオフォールか。やるではないか」
「アポカリプス将軍! 一大事です!!」
最上級の悪魔、グレーターデーモンが血相を変えて飛び込んできた。
ベテラン冒険者程度だと相手にすらならないレベル60代後半の伝説級の魔物だ。
「わかっている。魔軍が全滅したのであろう」
アポカリプス将軍と呼ばれた男は椅子の横に置いていた剣を取ると一度振るった。
「わざわざくだらない事を俺に伝えに来る暇があるなら貴様の爪でも磨いていろ」
「へ……ギャワゥ!」
アポカリプスは相手に触れていない、ただ剣を振っただけだ。
だが伝令に来たグレーターデーモンはその一振りの剣閃で真っ二つになっていた。
数千の魔軍が一瞬で全滅か。
ここはパンデモニウムを呼ぶか。
アポカリプスはそう言うと再び椅子に座った。
◆◇◆
私達は大魔女エントラの話を聞く事にした。
「かつてこの世界を魔王が支配しようとした、これは聞いた事あるかねェ?」
「はい、昔話で聞きました」
魔王を退治した英雄達の話、古くから伝わる昔話だ。
「そのパーティーに誰がいたかは知っているかねェ?」
「伝説の戦士、魔法使い、賢者、それに竜と聞いてます」
大魔女エントラはパンケーキのシロップを舐めながら話を続けた。
「間違っちゃないが、正しくはないねェ、戦士はバシラ、魔法使いはテラス、竜はヘックス、そして妾がそのパーティーだったんだねェ」
「!!?」
大魔女エントラ、彼女は遥かなる昔に伝説の魔王を倒したパーティーの一人だった。
「その後、バシラはこの辺りの村に定住し、テラスは魔法の修行の旅に出てそのたどり着いた地で子供を産んだ。ヘックスのバカは今頃どうしてるかねェ」
「エントラ様、そのテラス様が私のお母様のご先祖様なのですか?」
「フフフ、そうだねェ。魔法王『テラス・ペントハウス』、それが彼女の本名だからねェ」
これで納得できた、母さんの旧姓は『ウインドウ・ペントハウス』である。
魔術王の子孫なら凄い魔法を使えても何もおかしくない。
「そうそう、ユカ。アンタの一族もそういえばそうなんだよねェ」
「まさか……」
「そう、『バシラ・カーサ』それが伝説の戦士と呼ばれた男の名前、アンタの遠い先祖だねェ」
すると、父さんが最強の戦士長と言われていたのも伝説の戦士の血なのか。
「妾達は魔王を倒した。魔王は邪神を復活させてその力を手に入れようとしていたからねェ」
「でも今は魔王はいないのでは? 何故魔王がいなくてもモンスターは現れ、魔素が漂っているのですか」
大魔女エントラはため息をついた。
「魔王はいないが、今の時代、魔王の魔将軍四天王がいるからねェ」
「魔将軍四天王!?」
「そう、魔将軍四天王。『マデン』、『パンデモニウム』、『アビス』……」
魔将軍四天王の名前を羅列していたエントラの細めた目の表情が厳しくなった。
「……そして、『ゲート……』」
「エントラ様、それが魔王軍四天王なんですか!?」
ホームが興奮気味に質問していた。
「そう、世界に災厄をもたらし、魔王を蘇らせ、邪神の力で世界を滅ぼそうとする者達、アンタらの言う腐敗貴族に力を与えてるのもコイツらだからねェ」
なんという事だ、腐敗貴族の裏には魔王の影が存在していたのか。
「そして、今魔王軍の手下はミクニの国を手中に収めようとしている。魔将軍のマデンの仕業だからねェ」
「エントラ様、どうすれば良いんですか」
「とりあえず、船を出せるようにしてからミクニに行って欲しい、これは妾の頼い。是非聞いてくれないかねェ」
私達はモービーディックを大人しくし、船を動かせるようにしてミクニの国に向かう事にした。