191 ユカと大魔女エントラ
流星の魔女、大魔女エントラ、彼女は私の正体を知っているのか!?
「バンジョウ・ソウイチロウ。トライエニアックス。アンタ、この世界の人間じゃあないねェ」
「……」
彼女は私をどうしようと言うのだ?
「そんなに厳しい目をしなくても良いからねェ、妾はアンタの敵ではないから安心して良いからねェ」
大魔女エントラは笑っている。
「面白そうなのがいると思ってねェ、アンタの行動はずっと見ていたんだよ。一人で頑張って遺跡探索をしていた頃からねェ」
彼女は私の事をどこまで知っていると言うのだ!?
「でも妾はアンタの事は気に入ってるんだからねェ。転生者っては大抵邪神にそそのかされる者、しかしアンタはその力を人の為に使っていたからねェ」
「邪神! それって何者なんだ?」
「まだそれを知るにはアンタ達には早すぎるかもねェ、まあ教えても今のアンタ達には何もできないからねェ」
そう言うと大魔女エントラの目つきが変わった、ニコニコした糸目からまるで獲物を狙う狩人のような目になった。
「まずはミクニの国に行くんだねェ。そこで今後の事が見えてくるからねェ」
「そんな暇はないんです! 一刻も急がないと魔軍の大軍勢に国境警備隊が全滅させられます」
「そんな事、この妾が知らないわけがないからねェ、そこは安心すると良い。それではそれを二つ目の願いにしておこうかねェ」
「二つ目というと?」
「アンタらの願いの一つ目はモービーディック、いや、ホセフィーナの事だねェ」
やはり大魔女エントラは全てを知っているのだ。
「やはり、あの白鯨はホセフィーナが姿を変えたモノだったんですか!?」
「そうだねェ、あの子を助ける事が出来るのはバレーナ村の村長の家の笛だねェ」
「それがあればホセフィーナを元に戻せるんですね!」
「そうだねェ。知りたい事はそれだけかい?」
私はみんなを呼んでいいか大魔女エントラに尋ねてみた。
「良いよ、もう転生者の事は黙っておいてあげるから呼んでくるんだねェ」
「ありがとうございます!」
私はみんなを大魔女エントラの部屋に呼んだ。
「さて、アンタ達の聞きたい事だけど、あのモービーディックと呼ばれている白鯨はバレーナ村のホセフィーナで間違いないねェ。怒り狂う彼女を助ける事が出来るのは、村長の家の笛と、エリア、アンタの力だねェ」
そういうと大魔女エントラは砂糖袋を一つ従者に渡した。
「さて、これで一つ、次は魔軍の群れの話だねェ」
「ボク達は早く救出に向かわなくてはいけないんです!」
「その必要は無いからねェ。まあ見てると良いからねェ」
そういうと大魔女エントラは椅子から立ち上がって前方の白壁を杖で指さした。
「さて、今から面白いモノを見せてあげるからねェ」
大魔女エントラは私達の目の前にどこかの光景を映した、まるでプロジェクタースクリーンのようだ。
「これは妾の僕の目が今見ている南方の激戦地の様子だねェ」
「父さん! 兄さん!」
南方で魔軍のモンスターと戦っていたのは父のウォールと兄のピラーだった。
「このままだとジリ貧で負けてしまうねぇ、だからと今から救援に向かっても絶対に間に合わないねェ」
「!! では、どうすればっ」
「まあ、妾が助けてやろう。これが砂糖二袋目の願いという事で良いねェ」
大魔女エントラはそう言うと無詠唱で杖を掲げた。
◆◆◆
ここは南東の国境、大魔軍の大軍勢と戦っていたのは国境警備隊の精鋭、ウォール戦士長を中心とし、その補佐にピラー、そして冒険野郎Aチームの帝国最強軍勢だった。
「キサマラニエントラサマノオコトバヲツタエル。スグニウシロニサガレ、サモナクバゼンインシヌ!」
ウォール戦士長は謎の鳥が発した言葉を聞いた。
「何だと!? エントラ? 俺達がこのままでは死ぬというのか」
「父さん、この鳥の言葉を信じるんですか!?」
「ああ、どうせなら少しでも勝てる可能性に賭けてみようと思う」
ウォール戦士長は落とされた橋の反対側のギリギリまで全員に撤退するように指示した。
「さて、これから何が起こるというのだ……」