186 見えない敵を切れ!
クリスタルドラゴン、このモンスターはドラゴンの姿をしたゴーレム、または魔法生物といった方が正しいだろう。
「ユカ様、魔法生物という事は、これはドラゴンではないという事ですか?」
「そうだね、これはドラゴンではなく、ゴーレムや魔法生物といったところかと」
「そのような強力な魔法生物を作れる魔法なんて……まさか、これは大魔女エントラ様の魔法!?」
ルームはこのドラゴンの姿をした魔法生物が大魔女エントラの作った物だと確信しているようだ。
「ドラゴンではなくゴーレムか、俺が命の脈動を感じないわけだぜ」
みんなが私の言葉で目の前にいる敵がドラゴンではなくゴーレムだという事に気が付いた。
魔女はそのやり取りをクリスタルドラゴンの目から見ていた。
◆◆◆
椅子に座り少し微睡んでいた大魔女エントラはこの様子に目を覚ました。
「へェ、やるねェ。ゴーティの坊やはこれに気付くのに半年近くかかったのに」
魔女は杖を振るった。
「でも、目の前の敵が倒すべき物ではない事には気が付くかしらねェ」
大魔女エントラは杖を高く掲げた。
◆◇◆
ドラゴンが咆哮を上げる、何度聞いても凄まじい雄たけびだ。
だが、これが生物ではないとわかるとこれは何かの共鳴といった方が正しいだろう。
このクリスタルドラゴンは首を切っても体を切っても再生可能な操り人形というべきか。
だがそれならこの操り人形を動かしている何かがあるはずだ。
エントラが手下を使って操り人形を動かすタイプだとは私は思えなかった。
そうなると、考えられるのはこの結界の中にある何かだ。
「ユカ様、僕……父上に聞いた事があります。目の前の物に振り回されるな、敵は見えない所にある。心の目で見ろ。と」
ゴーティ伯爵の言っているのは心眼というべきか、ホームはあえて目を閉じ、意識を集中していた。
「……レジデンス流秘技! 無尽斬!!」
ホームは目を閉じたまま、敵の気配を感じながら斜め十文字に目の前を切り裂いた。
「手応えは……あった!!」
ホームは目の前にあった結界維持の為の大水晶を切り刻んだ。
すると、一つの大水晶が音を立てて砕け散った。
「ギャゴゴオオオオオオオオオオンン」
クリスタルドラゴンが吠えた。
そして光の結界はひび割れ、粉々に砕け散り光の粒子になってしまった。
するとクリスタルドラゴンは残る二つの水晶をその体に取り込み、空高く舞い上がり岩山の方向を目指して飛び去って行った。
「助かった……」
「なんという超魔力……あんな魔法生物を作れるなんて」
みんなは疲れ果ててその場に座り込んでしまった。
だが、エリアが疲れたみんなにレザレクションを使ってくれたので少しは楽になった。
クリスタルドラゴンが飛び去った後、代官のグラムさんが私達を心配して走ってきた。
「皆さん、無事ですか!?」
「こっちは問題ないです、それよりも村は?」
「大丈夫です、皆さんが結界を張ってくれたおかげで、この村には何の被害も出ておりません」
「えっ? ボク達がですか」
どうやらグラムさんはあの結界を作ったのを、私達のおかげだと思っているようだ。
「……そうか、そういう事だったんだ!」
「ユカ様、一体何が?」
「あのドラゴンが結界を張った理由だよ、アレはボク達の力を試す為だったんだ!」
「なるほど、そういう事ですわね。私達の力を試す為には、強大すぎるので村に被害が出ないように結界を張る必要があったのですわね」
「そうだったんだ、確かに僕達があんな最強レベルのモンスターと戦ったらこの村にどんな甚大な被害が出たかわからないよね」
みんながアレは流星の魔女による私達への力試しだったと理解した。
だが、クリスタルドラゴンがあれ程の強さという事は、そのマスターの流星の魔女とはどれ程の人物なのだろうか?
私達はその日、グラムさんの家で、砂糖大根をふんだんに使った郷土料理を食べてゆっくり泊まらせてもらった。
そして次の日、私達は村から流星の魔女へのお土産として砂糖の袋を四袋持たせてもらい、岩山を目指す事にした。