183 ゴーティ少年と大魔女 後編
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木の蜜を指で舐めていたエントラ様は舌なめずりをしながら私を見た。
「坊や、強くなりたいのかねェ」
「ハイ! 僕は誰よりも強くなりたいっ!!」
「坊やは強くなって……どうしたいのかねェ?」
「……誰よりも強くなって、僕を馬鹿にした姉や兄を見返したいっ!」
エントラ様はため息をついていた。
「ハァ、ダメだねェ。0点」
「何故ですか! 僕は強くなりたいっ! その為にはどんな事もします。手下にもなります。だから弟子にしてください!」
「坊やは魔法使いになりたいのかねェ?」
私には魔法の才能は皆無だった。
私が勉強そのものを嫌いだったのは魔法の才能がない事を馬鹿にされたからだ。
「ダメです……僕には魔法の才能は無いんです」
「あらあら、ダメじゃないねェ」
「でも強くなりたいんです、魔法がダメならせめて誰にも負けない騎士か冒険者になりたい!」
「……坊や、何があってもやり遂げるって約束できるかねェ?」
「ㇵイッ! 絶対やり遂げて見せます!」
エントラ様は私ににっこりと笑った。
「まずはその村の子供達を家に送り届けてあげるんだねェ。その後もう一度ここまでおいで」
「わかりました!」
そして私は一緒にいた村の子供達を家に送り届けた。
この辺りの一番の問題児だった私は子供達の親にことごとく叱られた。
全員を送り届けた後、私は再び化石の森のエントラ様の元に向かった。
「約束は守ったようだねェ」
「ハイ、僕を……強くしてくれるんですね!」
「いい心がけだねェ、でもその前にやる事があるんだねェ」
「一体何を?」
「1000! どんな敵でも良いから、人に頼らず自分の力だけで1000匹のモンスターを倒してみるんだねェ。でも、強くなりたいなら自分の力以上の敵と向かい合う事だねェ」
「わかりました!! 絶対やり遂げて見せますっ!!」
そして私は次の日から雨の日も風の日も毎日モンスターを倒した。
ゴブリンやコボルドだけではない。
もっと強いオークリーダーやホブゴブリン、アウルベアにポイズンスネーク等のモンスターを相手に日々戦い続けた。
そして数年後、私はついに1000匹目のモンスターを倒した。
「エントラ様! 1000匹のモンスターを倒しました!」
「わかってるからねェ、見てたよ。よく頑張ったねェ」
エントラ様は最初に会った時と同じ化石の森に現れた。
「さて、しばらくは家に帰れないからねェ。覚悟するんだねェ」
「覚悟はしていますっ! 是非お願いします」
エントラ様は移動魔法で私を一瞬で謎の城に運んだ。
「ここは妾の城、外を見てみるんだねェ」
私は窓から外を覗いてみた、そしてあまりの光景に驚いてしまった。
「ここは誰もたどり着けない高い岩山の城、かつて魔族のいた城と言われているねェ」
「僕は……どうすれば良いんですか?」
「ここで妾の僕と戦うがいい、死にかけても回復はしてあげるからねェ」
そう言うとエントラ様は水晶で出来た兵士や獣を次々と繰り出してきた。
全身傷だらけになりながら私は日々エントラ様の僕と戦い続けた。
そんな日々が延々と続き、私はどんどん強くなっていった。
「やるねェ。まさかクリスタルゴーレムを倒すとはねェ」
「エントラ様、次をお願いします!」
「これを倒せたら卒業だよ、頑張るんだねェ」
私がエントラ様の城で最後に戦ったのはクリスタルドラゴンだった。
しかし今までの敵とは比べ物にならないほど強い相手だった。
「その子を倒すのは力ではないからねェ。自分で考えてみるんだねェ」
私は知恵を絞り、長い時間をかけた苦戦の末、結界を破壊してクリスタルドラゴンを倒した。
「よく頑張ったねェ。これは卒業の証だよ、大人になったら飲んでみるんだねェ」
エントラ様は卒業祝いに私にワインの瓶をくれた。
これが私と大魔女エントラ様の思い出だ。
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私はワインを飲みながら辛い修行の日々を思い出した。
その後、本当の強さの為には勉強をするべきだとエントラ様の紹介で大臣のボルケーノ様の私塾に入ったのだ。
そこには皇太子殿下と後の大将軍パレスもいた。
そこで私は熱心に勉強をし、強さとは人を守る為の優しさを持つ事だと知り、騎士団長にまで上り詰めたのだった。