182 ゴーティ少年と大魔女 前篇
ゴーティ伯爵の過去の話です。
ここで初めて大魔女が出てきます。
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私はユカ達を見送ると棚にあったワインの瓶を開けた。
「大人になったら飲みなさい……だったな」
ワイングラスを傾けながらゴーティ伯爵は昔の事を思い出していた。
「大魔女……エントラ様。懐かしいな」
私は昔の事を思い出していた。
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「よーし、みんなオレに続けー!」
「「「おー!!」」」
私は昔、腕白な子供だった。
村の子供達を集めては森に出かけ、モンスターをやっつけていた。
だがモンスターと言ってもゴブリンやコボルドくらいだ。
私は家宝だった先祖伝来の名剣を倉庫から勝手に持ち出して、モンスターを退治していた。
村の子供の家にあった木剣や鉄の棒とはレベルが違い過ぎる名剣だ。
私は子供達のリーダーとして、威張ってモンスター退治をしていた。
他の子達は私の鎧と剣を貴族の息子様の物と羨ましがっていたものだ。
……だが、当時の私は子供過ぎた。
私の母は父のメイド、妾だったのだ。
幼くして母を亡くした私は、血のつながらない兄や姉には常に馬鹿にされていて、いつも隠れて泣いていた。
しかし子供達の中に居れば、そんな私でも一番強いリーダーになれた。
私はしょっちゅう家を抜け出しては、勉強もせず子供達と森に行っていた。
そんなある日、事件は起こった。
子供達と一緒に森に行っていた私は、普段大人に止められている森の奥に入ってしまったのだ。
通称化石の森。奥には古代の神殿があると言われた場所で、そこには決して入るなと言われていた。
しかし冒険心の強かった私達はそんな言いつけを無視し、化石の森に踏み込んだのだ。
そこで私は生涯忘れられない経験をした。
そこにいたモンスターはカトブレパスだった。
カトブレパスは伝説の魔獣、見た物を石にしてしまう魔力を持つ最高レベルの魔獣だ。
そのレベルは50以上、出会った者は間違いなく死ぬか石となって朽ちるまで永遠にそのままの姿になる。
私はその恐ろしさを知らなかった。
先祖伝来の家宝である名剣に斬れない物は無いと思っていたのだ。
だが、私はカトブレパスに毛スジ程の切り傷すら与えられなかった。
子供達は怯えている、そして頼りのはずの私は何もできなかった。
私達は泣き叫ぶ事しかできなかった。
だが、そんな時……あの方が現れたのだ。
「グラビティーフィールド!……そして、エナジーバリア!」
彼女は同時に無詠唱で二つの魔法を使ったのだ。
カトブレパスは動けなくなり、私達とカトブレパスは強固な光の膜に守られた。
「さて。幻の木の蜜を探しに来てこんなひよっ子の坊や達を助ける事になるとはねェ」
「おばさん……誰?」
「誰がオバサンだってェ? 坊や、カエルになりたいのねェ?」
「お……お姉さん。誰ですか?」
彼女は私の方を見たまま杖をカトブレパスに向けて魔法を唱えていた。
「ボルガニックフレア!」
火山の大噴火にも等しい炎の大爆発が光の膜の内側のカトブレパスを包んだ。
「妾の名前はエントラ。人は大魔女とか流星の魔女と呼んでるねェ」
彼女はよそ見したまま究極の火炎魔法を光の膜の内側で放ちカトブレパスを焼き尽くしていた。
「こんな所で究極火炎魔法を使うとせっかくの幻の木の蜜までダメにしてしまうからねェ」
「凄い……」
私はエントラ様の究極火炎魔法でカトブレパスは死んだと思っていた。
しかし伝説のモンスターはそれでも生きていた。
「しつこいねェ。しつこい相手は女の子に嫌われるのにねェ」
エントラ様は全く動じていなかった。
「では、消滅してもらおうかねェ。エナジードレイン!」
エントラ様はエナジードレインでカトブレパスの魔力をことごとく奪いつくした。
全ての魔力を奪われたカトブレパスは自らの石化耐性を失い、全身石化して粉々に砕け散った。
「有難うございます! エントラ様」
「気にする事は無いねェ。妾は用事のついでに助けてあげただけ、おまけの事だからねェ」
私はその時、土下座して頭を地面につけてエントラ様にお願いをした。
「お願いしますっ! 僕を……強くして下さい!!」