180 流星の魔女
女の肩に手を回して酒を飲みヘラヘラしていたカイリは、いきなり鋭い目線になり私を睨みつけてきた。
「流石だな、救世主ユカ。いつからオレがカイリ様だと気が付いていた?」
「あの言い方です。あなたはボク達に奴隷取引を阻止してくれと言いました。
これはつまり、船を出させるなって意味だったんです」
「そこに気付くとはねー」
カイリはニヤリと笑い酒瓶をラッパ飲みした。
「そうだ、あのまま船を出させるとモービーディックに船は沈められていた。檻に閉じ込められた奴隷だと抜け足す事も出来ず全員死亡だ」
「そこであなたはボク達に船を出させる前に奴隷輸送船を襲わせたんですね」
「襲わせたとは聞き捨てならないねー、奴隷を助けてもらったんだよー」
「まあ、そうなりますね。あなたの依頼は達成しました」
私はかつて”ドラゴンズ・スターシリーズ”での船の入手法を思い出していた。
Ⅰでは船のマップを用意せず、船の絵に乗るとマップを移動する形で大陸間移動を表現した。
Ⅱでは船の持ち主の孫娘を助ける事で船を受け取るが、その直後海賊団に襲われて返り討ちにし、その女海賊のリーダーが仲間になるシナリオだった。
Ⅲでは海王竜が暴れ狂って船が出せなかったのでその理由を調べ、海王竜の心の宝石を神殿に行って探し、小さな穴から小人になって大ネズミと戦って取り戻した。
Ⅳでは邪悪な灯台から闇の炎が燃える事で船が沈んでいることを突き止め、大灯台に乗りこんで、かがり火の虎を退治して聖なる灯を灯した。
このように各シリーズどれも船を手に入れるにはそれなりの苦労があったわけだ。
今回の件もそれに近い、モービーディックをどうにかしなくては海に出るどころではないのだ。
「カイリさん、あなたならあのモービーディックをどうにかする方法知っていませんか?」
「さあねー、わかってたらもう実践してるよ。それが分からないからお手上げってわけさー」
「ではどうすれば……」
「世界一の賢者と言われる流星の魔女なら、何か知ってるかもしれないけどねー、」
「流星の魔女様ですって!」
ルームが目を輝かせていた。
「ルーム、その流星の魔女って何なの?」
「ユカ様、流星の魔女様は私達がヘクタールの収穫祭でアンデッドに襲われた時に降り注いだ魔法の使い手ですわ。世界一の魔法使いで魔法を志す者でその名を知らない者はいないってお方ですわ!」
どうやら話を聞くと流星の魔女とは凄い魔法使いだという事は分かった。
「でもその流星の魔女ってどこにいるんだ?」
「さあねー、オレもわからないから困ってるんよー」
「幾つもの海をまたにかける大海賊のカイリさんでもわからないんですか?」
「どうやらこの大陸のどこかにいる事は確実なんだが、オレが知ってるのはその程度よー」
私達は流星の魔女の住処を探す事からしなければいけないようだ。
『急がば回れ』今ここで下手に船を出してもモービーディックの餌食になるだけだ。
それなら流星の魔女を探してモービーディックを大人しくする方法を考えた方が良い。
そんな流星の魔女を探す事に困っていた私達をカラスが見ていた事は誰も気が付かなかった。
◆◆◆
「はっはっは、妾はあの者たちが気に入ってるのよねェ。でも、せめて自力でここを見つけ出してくれる程度でないと……力を貸してやりたいとも思わないのよねェ」
流星の魔女はカラスの目を通してユカ達の様子を眺めていた。
「モービーディック、いや。ホセフィーナだったねェ。元に戻す方法はあるのよねェ、でも……せめてここに来れないと教えられないねェ、さあ、でもどうやってここを見つけさせるかねェ」
流星の魔女はユカ達が頭を抱えているのを愉快そうに笑っている。
「さあ悩め、悩め。それが解決できてスッキリしたら力を貸してやろうかねェ。はっはっはっはっは……」
流星の魔女の笑いが険しい岩山の城にこだましていた。