177 救い出された奴隷達
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モービーディックの去った海が血の色に染まった。
シャトー侯爵夫人は手下もろとも巨鯨モービーディックの餌食だ。
「ふー、間一髪だぜー」
オレは投網で捕らえて助けた奴隷にされていた若い男と男の子達をまだ沈んでいない船のマストに引っ掛けた。
「少しそこで我慢しててくれー」
そしてオレは豪槍ポチョムキンを構え、海面の潮の流れをスキルで変更した。
「オレの船をここまで持ってこいー!」
スキルで変更した潮の流れは動かない様に固定していたオレの小舟を手元に引き寄せる事ができた。
「待たせたな、お前らも乗せてやるぜー!」
オレは捕らえた男達には傷一つ付かないようにポチョムキンを振るい、投網を切り裂いた。
「ほらよっ、これで船に乗れるだろー」
「あ、ありがとうございます! ありがとうございます!」
「助かった、アナタはひょっとして……あの」
オレはニッコリ笑い親指を立てた。
「おっと、お礼の言葉ならここを脱出してからだぜー」
オレは口笛を吹いた、するとオレの船の近くに真っ白な子鯨が現れた。
「よう、来てくれたかー。ハーマン!」
この子鯨の名前はハーマン。
オレの昔からの相棒だ。
「ハーマン、陸地まで頼むぜ」
「キュイイイイッ!」
ハーマンが一声鳴いた。
その直後、オレは切り裂いた投網の綱の部分をハーマンに投げた。
ハーマンは綱を咥えると、フルスピードで陸地目指してオレの船を引っ張ってくれた。
「ヒエエエエーー!!」
「何だ、だらしねーなー、この程度の速さ、ただの風みたいなもんだろ」
「無理ですっ! 無理ですってー!」
どうやら捕まっていた男達はこの船の速さが怖いらしい。
この程度の速さ、大した事ないはずなんだがな。
「ハーマン、もう良いぜ。ありがとうなーっ!」
「キキュッキュッキュー」
オレはハーマンに新鮮な魚を投げてやった。
アイツはそれを追いかけて美味しそうに食べた、可愛い奴だ。
オレは陸地に上がると奴隷にされていた奴らを軽く蹴った。
「ほらよっ! これからは自分らでどうにかできるだろーよ」
「え……そんな事言われても」
「だらしのねー奴らだな、服なんてその辺に転がってるだろーが」
実際、ここには服をはぎ取れる真新しい奴隷商人の手下の死体がいくつも転がっていた。
どうやらユカ達はオレの狙い通りに奴隷運搬船をぶっ壊してくれたようだ。
まあ船は派手に燃えているがアイツの事だから奴隷に傷はないだろう。
オレが聞いた救世主のユカはそういう奴だ。
弱者を誰一人傷つけずに助け出す救世主、オレはそれを聞いて気に入った。
「さてと、アイツらが戻ってくる前に酒場に帰りますかー」
オレはあいつ等が来るのを待つ為に酒場に戻った。
◆◇◆
私達は奴隷を全員救出し、奴隷輸送船から無事脱出した。
「やはり保険金狙いと証拠隠滅を狙ってきたな」
「ユカ様、ひょっとしてこうなる事が分かっていたんですか?」
「うん、ヒロの話を聞いたら次の手がわかったんだよ」
私達は救い出した奴隷をポディション商会の鍵の開いたままの倉庫に連れて行った。
「今日はここで休んで、明日出発しよう」
私はガリガリに痩せた奴隷達に美味しい物を食べさせてあげようと考えた。
「目の前の海底を二十メートル程高い陸地にチェンジッ!」
想定通り、私のマップチェンジで海底にいた魚が全部打ち上げられた。
コレだけの数があれば百人以上の食料にはなるだろう。
私達は打ち上げられた魚を根こそぎ拾って焼き魚と運搬用の木箱をひっくり返した巨大な特製鍋を作った。
「美味しいです、こんな物が食べれるなんて」
「ありがとうございます、助けていただいた上このような食事まで」
救出されたみんなが無事食事をしていた、中には涙を流している人もいたくらいだ。
そして私達も一緒の遅めの夕食をとった。
食事をしながら私は先程気になった事をお爺さんに聞いてみる事にした。
「お爺さん、あの時巨大鯨を見て言っていたモービーディックって何なのですか?」