175 燃える輸送船
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私は妙な違和感を感じていた。
公爵派悪徳貴族の金儲け方法があまりにも現代社会の闇の構図に似ているのだ。
魔法陣を使ったエネルギー利権、奴隷売買の分散化されたシステム化、魔薬を売るネズミ講システム。
どれもがまるで現代社会のヤクザやマフィアの稼ぎ方そっくりなのだ。
これは別の転生者が手引きしているに違いない。
今まで聞いた話の総括をしてみると、それに当てはまるのがヒロという女のように感じるのだ。
確かにゲームの悪役は社会的な時事の事を元にしたキャラを使う事もある。
だがこれは『水戸中納言漫遊記』や『必殺忍び人』等の時代劇でもよく使われた方法だ。
ブラック企業、振り込め詐欺、人材搾取、これらを社会問題を江戸等の時代に落とし込んでアレンジする。
私も中世に落とし込んで“ドラゴンズスターシリーズ”でもやった方法だ。
そう考えると、次に彼女がしてきそうな事は……!
「ルーム! この船の海側の側面に魔法で大穴を開けてくれ!!」
「承知致しましたわ!」
私は伝声管を使い、船の積み荷部分にいるルームに船の横に穴を開けるように伝えた。
「イラプシオンコルムナでは強すぎますわね、ここは……ファイヤーボール! からの……エアリアルバースト!」
ホームはファイヤーボールで風穴を開けてから、その後火が回らない様にエアリアルバーストで炎を吹き飛ばした。
「よし! これで全員助かるか! 目の前の海を平らな地面にチェンジ!」
私はヒロやポディション商会の連中に気付かれない様に船の海側を陸地にマップチェンジした。
「後は、奴隷にされた人達を助けるだけだっ!」
私は船の積み荷部分に戻り、遺跡の剣で檻の鉄格子をぶった切った。
鉄格子は所詮は鉄、古代金属とは強度が違い過ぎる。
囚われた奴隷達は鉄格子の切られた檻から外に飛び出した。
「みんな、そっちの海の側から外に出るんだ!」
私の指示で囚われた人達が全員船の外に脱出した。
◆
「フフフ……あの船のエネルギーは魔法陣からの魔力供給、それを暴走させて荷物の火薬に点火させれば……ボンッ」
ヒロは用意周到な女である。
彼女はいざ損しそうになれば目先の損得は考えずに目の前の物を切り捨てる。
悪い意味で『損して得取れ』が出来る人物なのだ。
彼女の命令で船には外部から供給されていた魔法陣エネルギーのバルブが最大に開放された。
このままバルブが開いたままだとエネルギーは暴走し、魔力炉がオーバーヒートを起こして船は大爆発する。
◆
「な……なんだこれは!?」
「ヤード、わかったかい? これがヒロのやり方だよっ」
「そんな……オレに地位と利権をくれるって話は!?」
「バカだねぇ、そんなの出まかせにきまってるだろっ! アイツはそういう女さっ!!」
私達は積み荷には目もくれず、奴隷にされていた人達と生き残りの船乗りを連れて海に作った地面に脱出した。
その直後、魔力炉の暴発した船は大爆破の後炎上。
もしあの中にいれば高レベルでスキルを持った私の仲間以外全て全滅していたであろう。
「ユカ様、危機一髪でしたね」
「そうだね、でもみんな無事で良かったよ」
助かった私達は沖合の方に船があるのを見つけた。
暗がりでよくは見えなかったが、船はかなり豪華そうな作りに見えた。
「ユカ様、あの帆にあるのはシャトー侯爵家の紋章ですわ!」
ルームが遠くに見える船について語った。
シャトー侯爵と言えばゴーティ伯爵の姉が嫁いだ先の相手で公爵派貴族である。
どうやら今回の取引が失敗したので逃走をしようとしていたのだろう。
だが、私達の目の前で沖合の船はおかしな挙動を見せた。
船が動かなかったかと思えばいきなり真っ二つになり、そして逃げだそうとした脱出用の小舟が白い大鯨に飲み込まれてしまったのである。
「あれは……伝説のモービーディック! なぜこんな所に?」
奴隷にされていた老人がいきなり話し出した。
モービーディックとは何者なのか?