173 マイルとヒロ
◆◇◆
奴隷商人が気になる事を言っていた。
私達がカイリの仲間だって?
私達はカイリにあった事も無ければ仲間になった覚えもない。
しかし奴隷商人が毎回邪魔されていると言っていたので、どうやらカイリは悪人ではなさそうだという事だけは分かった。
「カイリなんて知らないよ、でもお前達のことは許せない!」
「何の罪もない人を奴隷にするなんて、絶対に許さない! この魂の救済者の露にしてやる!」
私達を見ていた奴隷商人と生き残りの船乗りの荒くれがいきなり腰を抜かした。
「女みたいな顔のくせにめちゃくちゃ強い、凄い剣を持った連中……まさかお前らは……盗賊退治のユカ!?」
「まさか、あの不死身のアジトさんを倒したって!?」
「げっ! マジかよ……勝てるわけがねぇよ!!」
どうやら悪人共には私達の事は凄く恐れられているようだ。
盗賊団のボス、不死身のアジトを倒したというのは悪人たちにとって、それ程恐怖の対象になっているらしい。
「勝てるわけない、逃げろーっ!!」
船乗りの中には逃げる為、海目掛けて飛び込もうとするやつがいた。
だが無駄だ、周りは海ではなく既に全部硬い盛り土になっている。
「げへぇ!」
「ぎゃぶっ!!」
飛び降りた連中が下で無残な姿になっているようだ。
そりゃあ15メートルほど下の土に勢いよく飛び降りれば飛び降り自殺とほぼ変わらない結果になる。
私のマップチェンジは意図せずに悪人ホイホイになっていたらしい。
残った悪人は既に絶望の表情で私達を見ていた。
「なあ、奴隷は解放する、この鍵も渡す。だから見逃してくれ」
ヤードと呼ばれた男が私に跪いて頭を何度も地面に叩きつけて謝っていた。
しかし私はそんなヤードを軽く蹴り飛ばした。
軽くとはいえレベル50の蹴りである、普通に喰らえば致命傷レベルだ。
「ぐべぇっ!!」
蹴り飛ばされたヤードは船のマストにぶつかり、そのままマストがポッキリ折れた。
「ユカ、さっきの音は何ぃ?」
マイルさんとシートやシーツ達が甲板に上がってきた。
「いや、ちょっとやりすぎたかな……」
ヤードはマストにぶつかったまま気を失っている。
「茨の呪縛」
マイルさんがヤードを植物の蔓で縛り付けた。
そして厳しい表情のマイルさんがヤードの頬を往復でビンタしている。
「コイツッ! 起きろっ! 起きろぉ!!」
「ぶっ、ぶべぇ!」
何度もビンタされたヤードは意識を取り戻した。
「ヤード、お前達はどうして父さまを裏切ったぁ!?」
「フン。金が欲しかったからだ。ヒロ様が私達にディスタンス商会を裏切れば地位と金をくれると言ったんだよ」
「ヒロ……だって!? あのヒロ・ポディションかっ!」
「マイルさん、そのヒロって誰なの?」
「……ヒロは私が学校でいじめていた女の子だ。最初は他愛ない話だった」
「何故……彼女を?」
マイルさんは遠い目で話し出した。
「アイツが最初にあーしを馬鹿にしたんだ。獣臭い獣人だってぇ」
「それは……」
「その後も取り巻きとあーしを事あるごとに馬鹿にしていた、獣は森へ帰れだとか、人の服を着るなとかぁ」
それはどう考えても相手の方が悪いな。
「あーし、悔しかった。それなのでやってはいけない手段に出たんだ」
「一体何を?」
「親の権力を使ったのさ、獣人だと生まれをバカにされるなら、金持ちとして生まれながらに持つ物で反撃してやるって思ってねぇ」
なるほど、それで反撃したのがエスカレートしたいじめになったわけか。
「その後あーしはヒロを徹底的にいじめた。そうすればもう攻撃されないだろうと」
「けど、それを商会乗っ取りという形で逆襲されたんですね」
「そういう事。彼女はそこにいるヤードとフィートが非合法な商売をしているのを知っていて、声をかけたんだよ」
どうやら話を聞いていると今回の悪徳商売の裏には、そのヒロというのがいるように感じるな。