171 輸送船の大乱闘
私達は奴隷達が船に乗せられるのを見ていた。
先程奴隷を手荒に扱った男が処分されたので奴隷に強圧的な態度を見せる奴はいない。
だが、奴隷達には恐怖が染みついているようで、誰一人として反抗しようという気力すら無いようだ。
「ユカ、どうするのぉ? 国外に逃げられたらもう助けられないよ!」
「そうだね、でも大丈夫。ボクが全員助けて見せる!」
私はみんなを連れて船の人に見えない裏手に回る事にした。
「船の前の海を埠頭と同じ地面にチェンジ!」
「なるほど! これで船を囲んでしまうんですね!!」
「そうだね、これなら船を出す事は出来ない」
船は埠頭と同じ切り出した盛り土で囲まれた。
だが、奴隷商人や侯爵夫人は気づいていないようだ。
「さあ、今のうちに船の中に入るよ!」
「了解です!」
「承知致しましたわ!」
私達は船の中に窓の部分から入り込んだ。
船の中は大きな空洞になっている、さしずめコンテナ船といったところか。
その中に木枠で囲んだ巨大な檻があり、どうやら奴隷はこの中に入れられるようだ。
奴隷達を船に乗せた後、屈強な男達が船に乗り込んできた。
その最後にヒョロっとした痩せぎすの男が乗ってきた。
「アイツは……」
「マイルさん、あいつを知ってるんですか?」
「アイツはヤード。フィートと一緒にディスタンス商会を裏切ったヤツだよ!」
「そうなんですね」
どうやら今回の一件もディスタンス商会が絡んでいるらしい。
奴隷商売といい、麻薬売買といい、ディスタンス商会は悪徳貴族と組んだ悪徳商人で間違いないようだ。
「ユカ様、それで、どうやって人質を助けるんですか?」
「今それを考えてるんだ」
とりあえず今できる事としては、この密室空間の中で屈強な男達の用心棒と非力な奴隷の区分けを待つことだ。
つまり、奴隷たちは全員が頑丈な檻の中に入れられて逃走出来なくされる。
これは本来救出するのが困難になる事なのだが、反対に考えると……奴隷を人質にとれないのと用心棒退治がやりやすくなるといったところだ。
「みんな、奴隷が全員檻に入れられるまでは待機だ」
「……わかりました」
「承知……致しましたわ」
みんな不本意なのはわかっている。
だが、今は成り行きに任せて最良のシチュエーションになるまで待つ、これが犠牲者を出さずに奴隷を救出する方法だ。
そして最後の奴隷が檻に入れられ、その檻全てにカギがつけられた。
船の桟橋になっていた釣り扉が鎖でどんどん引き上げられ、ついに船の出港準備が完了した。
「みんな、作戦開始だ! ルーム、スリープの魔法を頼む」
「承知致しましたわ! スリープ!」
魔獣使いの杖とサークレットで魔力倍増されたルームのスリープは瞬く間に部屋の全ての人間を眠らせた。
そりゃあこれだけ狭い空間で魔力倍増ならこうなるだろう。
「次はあーしの出番だね、茨の呪縛!」
マイルさんは積み荷の穀物から蔓を伸ばし、全員の用心棒を縛り上げた。
そして私は船の甲板の上に走った。
◆
「何故だ! 船が動かねぇぞ!!」
「船長、大変です!! 船が陸地に囲まれて動きません!」
「何だと!? 馬鹿も休み休み言え!」
「本当なんですって」
船乗り達は船が動かずに混乱していた。
そこに私はホームと二人で乗り込んだ。
「奴隷商人め! お前たちの好きにはさせないぞ!」
「何だとこのガキィ! お前らこいつらをぶっ殺せ! いや、いい顔だから生け捕りにして侯爵夫人に売りつけてやろうか」
「出来るものならやってみろ!!」
私達は遺跡の剣と魂の救済者で船乗り達を次々に斬り倒した。
どう考えてもこの程度の連中、今の私達の敵ではない。レベル50前と30前後、それに対して用心棒は言ってもレベル15といったところだ。
「テメエら、カイリの仲間か!? 毎回毎回邪魔しやがって!!」
私達がカイリの仲間?